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空の宇珠 海の渦 外伝 魂の器 その七






浜で上げられた魚は、直ぐに加工場に運ばれていった。

 


そこで、頭を落とされ干物にされる。



保存する技術は、古から受け継がれている。

 



「兄ちゃん、手伝わないつもりか…」



那海も加工場に、魚を運ぶ手伝いをしていた。

 


「那海、聡真はどうした?」

 


聡真の父、万次が娘の那海に声をかけた。

 



「用があるって、弦の所に行ってる…」

 



「九がいないと思ったら、あいつもか…」

 


「ふたり揃って怠け癖か…ま、片方は入鹿魚だけどな…」

 


万次はそう言って笑った。

 



だが、那海は気になっていた。


 


挿絵(By みてみん)





魚の入った木箱を持ったまま、弦の小屋の方を見ていた。

 



「何か、気になるのか、那海?」

 


万次がその様子に言葉をかけた。

 


「ちょっとだけ…」

 


あの黒い影。

 


見たことはないのに、恐ろしいと感じた。

 


その理由が知りたい。

 


光と闇。

 


見た者は導かれる。

 


どちらであろうが関係ない。

 


那海の中で、何かが動き始めていた。




「やっぱり、私も行ってくる!」

 


「お、おい!」

 


木の箱を万次に預け、那海は走って行った。 



「やれやれ、似たもの同士か…」

 


父は、娘の背中を、温かく見つめていた。







 

聡真は、あることを気にしていた。

 


「千潮が、いない様だけど…」

 


弦は千潮を助けようとした。

 


助けられた筈の、千潮がいない。



「少し遅くなるって、伝言を頼んだんだ…おじさんに…」

 


「この人達に、魚を焼いてあげたかったんだ…」




「それでか…」


 

かすかに漂う魚の焼ける臭い。

 


「お前は食えぬのに、おかしいなと思ったんだ…」

 


聡真の謎は解けた。

 



「あれは、うまかったぞ!」

 


聡真が獲った魚だ。



嵐はその味に満足していた。

 



「弦の作る塩は美味いからな…」

 


「生きのいい魚に、振って焼けば上手いに決まっている」

 


聡真の言葉に、嵐が頷いている。

 



「でも、神が魚を食べているのに…」

 


「草や木は食えて、どうして動物だけだめなんだろう…」

 


弦に一つの疑問が浮かんだ。




「考えてみると、おかしな話だな…」


 

聡真も同じ疑問を抱いていた。

 



「おじさんは、何と言っているのだ…」


 

真魚が、弦に状況の確認を入れた。

 



「決まりだから…そう言っている」

 


弦が答えた。

 



「誰が決めたのであろうな…神がそんな事を言うまい…」

 


嵐が自らを肯定している。

 



「食べることは、生きる事だ…」

 


「神は、それを否定しない…」

 


真魚がそう付け加えた。

 



「人は何かを食べないと、死んでしまうのにな…」

 


聡真が考えている。

 



「人は、その理からは逃がれられぬ…」



「だからこそ、奪った生命と共に、生きねばならぬのだ…」



真魚の言葉を噛みしめるように、二人が頷いた。




「他の神様って何か食べているの?」

 


弦が、おかしな事を言い始めた。

 



「他の神とはどういうことだ!」

 


嵐が弦の言葉を窘めた。

 



「神は生命(エネルギー)だ、全てだと言っていい…」

 


「だから、その必要は無い」

 


真魚が弦の疑問にそう答えた。

 



「嵐はどうなるの?食べているけど…」

 


弦は目の前にいる神の事を不思議に感じていた。

 



「嵐の正体を見たであろう…これは借りの姿だ…」

 



「まあ、やどかりみたいなものだ…」

 


真魚の言葉の後を嵐が追った。

 


嵐が、やどかりを知っていたのには、真魚も驚いていた。




「やどかり????」

 


弦と聡真はその姿を嵐と重ねた。

 



「俺は、この姿を借りているだけだ…」

 



「子犬の姿を…」

 


二人には全く理解出来ない。




「本来の姿を、この器の中に閉じ込めている…」

 


「そのためには、沢山の生命のかけらが必要になる…」

 


真魚はそういう言い方をした。

 


形の無い生命(エネルギー)を、理解しにくいと判断したからだ。

 


生命のかけら。

 


それは、生命そのものの事である。

 



「だったら、人も同じって言う事?」

 


聡真がその事に気付いた。

 



「身体という器の中に魂がある…」

 


「そう思っていい…」



真魚は二人にわかる様にそう表現した。

 



「身体と魂は別のものなんだ…」

 


聡真は初めて人について考えていた。

 


「魂は自由だ、この世にもあの世にも行ける…」

 




「そう言うことか!!」

 


弦が、真魚の言葉で何かに気付いた。

 



「だから、闇を怖いと感じたんだ、知っていたんだ!」

 



「魂が、全てを覚えているんだ!」

 



弦は、心が拓いていくのを感じていた。

 



今まで、教えられてきたことは狭い。

 


真魚の言葉が、染みこんでくる。

 


受け入れている。

 


喉が水で潤うように、真魚の言葉が染みこんでいく。

 


弦の魂。



その中にある尊い宝。

 


形は無い。

 


形あるものは、いずれ消える。

 


だが、これは永遠に消えない。

 


そう感じた。

 


感動の波動。

 


弦の魂に、生命が何かを刻んでいく。



「それこそが、生きる意味だ」

 


真魚がそう言った。





挿絵(By みてみん)





続く…


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