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空の宇珠 海の渦 外伝 魂の器 その五





入鹿魚の九が、突然、海の中に姿を消した。

 


同時に伝わる波動を感じた。




「なんだ!」

 


聡真は、直ぐにその方向を見た。

 


黒いものが、一瞬見えた様な気がした。

 



「あれは、弦の小屋の方だ…」

 


嫌な予感がした。

 


聡真の身体が、何かに導かれた様に、その方向に動いた。

 


「兄ちゃん!」

 


後ろから声が聞こえた。

 



挿絵(By みてみん)




振り返ると、那海が青ざめて立っていた。

 


「那海、お前も見たのか?」

 



聡真の問いかけに、那海は頷いた。

 



「九が、怯えて消えた、何かある!」

 


聡真はそう言い残すと、弦の小屋に走った。








「なんだ、海草が並んでいるだけではないか?」

 


嵐が文句を言っている。

 



砂にまみれた魚を、食べる為に来た。

 


嵐の中では、魚が美味しそうに、焙られている。

 



だが、そこには、砂浜に並べられた海草しか無かった。

 



「塩を作っているのか…」

 


真魚に、その知識が存在していた。

 



「貧乏な寺だからな…」

 


「俺が塩を作って、足しにしているんだ」



弦が、自分の状況を説明した。

 



「俺の塩を、その魚にふりかけて焼いてみろ、うまいぞ~!」

 


弦が、ここに連れてきた訳を伝えた。

 



「本当か!そうだ、そうなのか~」

 


弦の言葉に、嵐がとろけている。

 


頭の中では、妄想が広がっているに違いない。

 



「助けてもらったんだ、これぐらいはしないとな…」

 


弦が小屋に入り、木の箱を取ってきた。

 


中には塩が入っているはずだ。




弦の小屋は、浜の端の方にあった。

 


後ろは山だ。

 


切り立った崖を背にしている。

 



「まずは…その魚を洗わないとな…」

 


弦は、真魚が持っていた魚を取り、小屋の向こうに消えた。



 

小屋の向こうに、小さな川が流れている。

 


山から来る水だ。

 


海の影響は受けていない、真水だ。

 


しばらくすると、弦がきれいになった魚を持って現れた。

 



「こっちで火を起こすか…」

 


弦は木の台の上に魚を置き、薪をを取りにいった。

 



「そういえば…千潮はどこに行ったのだ?」

 


嵐が、千潮を気にしていた。

 



「寺に、事情を話に行ったんだ…」



「実は、おじさんに呼ばれていたんだ…」

 


火を起こしながら、弦が答えた。

 


その言葉に陰りがあった。

 


真魚は、弦のその心を感じていた。

 



「寺が、嫌いなのか…」

 


真魚が弦に聞いた。

 


「塩作りは嫌いじゃない、みんなおいしいって言ってくれるし…」

 


「人を誑かしているようで、いやなんだ…」

 


弦は、真魚にそう答えた。

 



「もう、逃げられないぞ…」

 


真魚が、弦に言った。

 



「逃げられない?」

 


真魚のその言葉が弦には分からなかった。

 



「あれを見て感じたものは、逃げる事は出来ない…」



「お主は理の一部を見たのだ…」

 



「理の一部…?」

 


闇と戦う美しい獣。

 


感じた恐怖。

 



「そうかも…知れない…」



弦はそれを、見てしまった。




もう、無いとは言えない。



弦の見たものは、この世のものではない。

 


それを見て、感じた。

 


光と闇。

 


それが、どちらでも同じ事なのだ。

 

 

だが、今の弦に、その事は理解出来なかった。

 



「千潮も…」

 


弦がつぶやいた。

 



「千潮も同じだ…」

 


真魚が答えた。

 



弦は千潮の笑顔を思い出した。



その事実が、うれしかった。

 



「それでも、千潮は変われたんだ…」

 


その事実が弦に希望を見せた。




「俺も…」 



「変われるかも…知れない…」

 


弦の中の何かが、動き始めていた。






挿絵(By みてみん)






続く…



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