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空の宇珠 海の渦 外伝 精霊の叫び その二十八






村に残された傷痕。




過去は取り戻せない。




失われたものは、戻っては来ない。




だが、人は今しか生きられないのだ。




創造した今が、過去になる。




その今が、充実したものならば、




過去は、充ち足りたものとなるであろう。




命の種。




ここから、新しい今が始まっていく。




村人達は、その想いを共有していた。




挿絵(By みてみん)




別れの時が迫っていた。




「真魚、嵐、ありがとう…」

 


菜月は心から感謝していた。

 



桜、たき、睦月もいた。

 




菜月のそばに谺が立っている。

 



「菜月、あの願いを忘れるなよ!」

 


子犬の嵐が菜月を見上げた。

 



「うん!わかってる」

 



「何の事だ?」 


 

その横で谺が怪訝な顔をしていた。

 



「神様のたわごと…だよね」 

 



「たわごとではない、理だ…」

 


菜月が笑い、嵐が答えた。

 



谺は何だか照れくさそうであった。

 



どうやら、自らの気持ちに気付いたのかも知れない。

 


それは、菜月も同じであった。

 


「木樵の頭にも、世話になったと言っておいてくれ…」

 


真魚が谺に言った。

 



「そのことだけど…桜に言われたんだ…」



「今回のことは、俺たちにも責任がある…」



「木を切るのは、命を奪うことだって…」



「今度は、失った木を育てて行こうと思っている」



倭の、言われるままに木を切ってきた。



山は生きている。



その命を奪ったままで、良い訳が無い。



谺はそう感じた。




「それが、覚の心だ…」



真魚がその事を伝えた。



その心は、村人の中でも生き続ける。




「また、来てね、約束よ…」

 


菜月が嵐に言った。

 


「その心に繋げ、いつでも飛んで来てやる…」

 


「あれがあれば、大丈夫だ…」



菜月は、その胸に手を当てた。

 


嵐の心が、確かに存在していた。




「ありがとう…」

 


菜月の瞳に涙が溢れた。

 


「疑っているのか?」

 



「そんなわけないでしょ!淋しいだけよ!」

 


菜月が頬を赤らめた。

 


「素直な所だけが、取り柄だな…」

 


「馬鹿…」

 


菜月が下を向いた。

 


「谺が妬かぬうちに、行くとするか…」

 


嵐がそう言って皆に背を向けた。

 


「何のことだ…」

 


谺が頬を赤らめた。



「神様って…自惚れ屋さんね…」

 


菜月が笑ってそう言った。


 

 






あれから数年が過ぎた。



あの後、覚の声は聞こえなくなった。

 



川に落ちた大きな岩。 




その岩が、村を救った事は間違いなかった。

 


村の者はその奇蹟を、覚が起こしたものと信じていた。

 


いつしか、その岩は『覚岩』と呼ばれるようになった。

 



その真実を知る者は誰一人としていなかった。

 



だが、菜月はあの時の波動を感じていた。

 



大地を揺らすほどの波動。

 



菜月はその岩を見る度に、真魚と嵐に感謝した。 

 


 

たきがいなくなった今も、それは忘れない。

 



胸に抱いた小さな命、その耀き。



その笑顔に、尊さを感じていた。

 



「ありがとう…真魚…嵐…」

 


それは、菜月にとって、かけがえのない贈り物であった。

 



「命は輝かねばならぬ…」



真魚のその言葉は忘れない。




菜月はその耀きを、抱きしめて想った。




挿絵(By みてみん)




空の宇珠 海の渦 外伝 精霊の叫び -完-






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