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空の宇珠 海の渦 外伝 精霊の叫び その二十五





役人の男が、山道を登っている。


 

道はどんどん険しくなり、獣道のようになっている。

 



谷の底で、流れるはずの水が、枯れている。

 


男の疲労は、限界に達していた。

 


「もうすぐです…」 

 


付き人が言った。

 


心なしか、登りが緩やかになっている。




その時…



木々の間からそれが見えた。

 



「本当だったのか…」

 


男は立ち尽くした。

 




挿絵(By みてみん)





そして、何かに導かれるように、湖に近づいていく。

 


美しき鏡のような水面。




そこに、自らの未来が映っていた。

 



頭を下げ、謝罪している。

 


男の中から、ふつふつと湧き上がるものがあった。

 



怒りだ。

 



自分のせいではない。



男がその場に座り込んだ。

 


両手が土に触れた。

 


手をついて謝っている。

 



その心象と重なった。

 




「こんなもので私の将来が…」



男が拳を握りしめた。

 



「!」

 


付き人は、男に纏わり付く黒い影を見た。



見たような気がした。

 



男が握りしめた拳。

 



その行き先が、気になっていた。

 


男は、その拳を振り上げた。




「こんなものの為に!」

 


男が、拳を振り下ろした。

 



付き人が目を瞑った。

 


殴られると思ったからだ。

 


だが、その衝撃はない。

 


付き人が目を開けた。

 



「なんだ!あれは!」

 


空中に黒いものが集まっている。

 


その真ん中に、何かがあった。

 



黒いちいさなもの…

 


石だ。

 


その石に、黒い霧が集まっている。

 



それが、だんだんと大きくなって行った。

 



「こんなものの為に!」

 


男が叫んだ。

 


黒い巨大な塊。

 


それが、湖に落ちた。

 


その瞬間、土砂の堤から水が溢れた。

 





「覚が言っていたのはこのことか!」

 


木の上から前鬼と後鬼が見ていた。

 


後鬼は、直ぐに手にした鈴を鳴らした。

 



「これで、真魚殿には伝わる…」

 



流れ出した水が土砂の堤を破壊していく。

 


一気に湖の水が溢れ出していた。

 



その時…

 



うぉおおおおおおおおおお~




覚の叫びが轟いた。

 



今までのような声では無い。

 


その波動が、大地を揺らすほどであった。

 


 





菜月と桜が同時に顔を上げた。

 


谷の上流に何かを感じた。

 



「覚の声!」

 


覚の叫びが聞こえた。

 


その声で二人が目を合わせ頷いた。

 



「嵐お願い!私と桜を運んで!」


 

菜月の声と同時に、嵐が霊力を解放した。

 



次の瞬間には、菜月と桜は別の場所にいた。

 



菜月が川向かいに、桜が手前に別れ村人に伝えた。

 


川の側の畑、家、菜月と桜を嵐は運ぶ。



場所を変えて、瞬時に運んでいく。

 



「これで、飯の借りは返せたか…」

 


「十分よ!」

 


嵐の問いかけに、菜月が答えた。

 


菜月の波動が高まる。

 


桜も同じだ。



二人の波長が上がっている。

 



「とにかく高いところへ!直ぐに逃げて!」



水がくるまでに時間が無い。

 



「みんな逃げて!水が来るわ!高い所へ!」

 


菜月は出る限りの声で叫び続けた。

 



村人は、その声で逃げた。

 



「何も持たないで!直ぐに逃げて!」

 


菜月と桜の声で、村人が動いた。

 



お互いの力が、重なり広がる。

 


それが、大きな力となり、村人の心を揺さぶった。

 



言葉だけではない。

 



二人の波動が響き、村の人々に伝わっていく。




救いたいと願う心。

 



それは、菜月と桜の心の叫びでもあった。




挿絵(By みてみん)





続く…










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