表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
284/494

空の宇珠 海の渦 外伝 精霊の叫び その二十二






覚の声を聞いて、真魚が言った。



「一息、入れよう…」


 


「そうだな…」

 


側にいた頭が、皆の姿を見ていた。

 



「おい、みんな!ここらで休憩だ!」


 

頭のその声で場の緊張が緩んだ。

 



「ちょっと来てもらえぬか…」

 


真魚は頭に向かって言った。

 


「どうしてだ…」

 


頭は怪訝な表情を見せた。

 




挿絵(By みてみん)




「どうやら、客が来るようだ…」



 

「客?」

 


頭は真魚の言葉で、更に迷路の奥に迷い込んだ。

 



話をしながら、木の通路を使って、川の上まで出た。

 



その通路は、皆が逃げる為のものであった。

 



「あれだ…」

 


真魚がそう言って顔を向けた。

 


その先に、二つの人影が見えた。

 



「なるほど…」


 


頭は、その影が誰であるか知っていた。

 



もうすぐ、来る頃だと思っていた。

 



「これは!どういうことだ!」

 


頭の顔を見るなり、役人の男は怒鳴った。

 



「どうもこうも、見ての通りでございます」

 


頭が大げさに、その手を広げた。

 



「木はどうしたのだ!もうすぐ約束の日だぞ!」

 


男の怒りは収まらない。

 



「それが、全てあちらで…」

 


頭は堰に手を向けた。

 



隠してもしょうが無い。


 

正直に言ったまでだ。

 



「何だと!」

 


役人は、奥歯を噛みしめた。

 


男の自尊心が感情を高ぶらせる。



怒りが溜まっていくのがわかる。

 



「こんなものの為に、私が頭を下げるのか!」

 


男の怒りが爆発した。

 


その言葉が、男の描いた未来だ。

 



付き人は側で小さくなっていた。

 



「もうすぐ上流の湖が決壊する…」

 


「これは、村を救うための堰だ…」

 


真魚が男に言った。

 



「お主は誰だ、見たこと無い顔だな…」

 


男は、奥歯を噛みしめたままだ。

 



「佐伯真魚という、旅の途中に通りかかった…」

 


真魚は面倒な説明を省いた。

 


男にそれだけ言った。


 

「佐伯…だと」

 


「そのような者が、ここで何をしている?」

 



「見れば分かるだろう、一緒に堰を作っている」

 


「お主…正気か?」

 


男は、そう言って笑った。

 


男にとって、汗を流すことなど愚の骨頂。

 


そう思っているに違いない。

 



「なかなか良いものだぞ、身体を動かすと言う事は…」

 


真魚は笑みを浮かべた。

 



「それに、村が沈み民が死ねば、困るのはお主だ…」

 


「せっかく切った木も、流されるであろうなぁ…」

 


真魚は更にそう付け加えた。

 



「う…」

 


男は黙ってしまった。 

 


木が流されてしまえば元も子もない。

 


堰が保てばその場に木は残る。

 


解体すれば再利用出来る。

 


男は瞬時にその事に辿り着く。

 


だが、溢れた感情は、直ぐには治まらない。

 


側にいる付き人が怯えている。

 


怒りの矛先が、次に向かうのは何処か…

 


それを探っている。

 



「可愛そうに…」

 


真魚が男に向かって言った。

 


「付き人が、怯えているではないか…」

 


真魚の笑みが、付き人に向けられた。

 



「わ、私は何も…」

 


付き人がその笑みに答えた。

 


「もう良いわ!」

 


怒りをはき出した後、役人の男はその場を離れた。

 



「素直に引き下がるとは、思えんな…」

 


真魚がつぶやいた。

 


「くせのある男だからな…」

 


頭の言葉の中には、役人に対する嫌悪が含まれていた。

 






「忌々しい奴らだ…」

 


役人の男の怒りは収まらない。

 


それどころか、どんどん膨らんで行く。

 


そこに、もう一人の付き人が走って来た。

 


「ここにおられましたか…」

 



「お主は何を聞いてきた?」

 


役人の男が付き人に聞いた。

 



その声の雰囲気を、付き人は感じ取った。

 



「あ、あの、この川の上流で、山が崩れ…」

 



「もう良いわ!」

 


「その話を聞かされ、虚仮にされた所だ…」



 

付き人の言葉に、怒りが増幅される。

 



「奴らの言う事は本当なのか?」

 


自分に言い聞かせる様に、男はつぶやいた。

 


付き人は返事に困った。

 


独り言ならば、関わらない方がいい。

 


矛先は自分たちに向かってくる。

 


「お主ら、行って見てこい…」

 


役人の男はそうつぶやいた。

 


「できた…湖をでしょうか…?」

 


付き人の一人が、恐る恐る口を開いた。 

 



「待て、私が行く…行って確かめてやる…」



「無能な奴らの考えを…」

 


拳を握りしめ男は言った。

 



他人など信用しない。

 


その男の言葉はそう告げていた。

 



自らの目で見たものだけが、この男の真実なのだ。

 



ある意味で、それは間違ってはいない。

 



二極の器。

 


その力を使い、生み出した感情。



その波動に、惹かれ導かれていく。

 



真実という答えを求め、人はその力を使う。




だが、今のこの男は…




その力に、翻弄されているだけであった。 





挿絵(By みてみん)




続く…



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ