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空の宇珠 海の渦 外伝 精霊の叫び その十九





その日から、木樵達の作業が始まった。



菜月達の予想通り、村人がのぞきに来た。

 


菜月は、先ず子供達にその事を伝えた。

 


子供達は驚いて飛んで帰った。

 




挿絵(By みてみん)





「これで、村の人も動く…後は食料と…」

 


菜月はこんな状況なのに、楽しく感じていた。

 



悲しいことが起ころうとしているのに、楽しんでいる自分がいる。

 



相反する感情に戸惑っていた。

 



だが、それは間違いでは無い。




村人を救うことに、生きている証を求めているだけだ。




それが、菜月の生命(エネルギー)を高めていく。




菜月はそのことにまだ気づいていなかった。






それから数日、菜月は桜と村の家を回っていた。

 



噂は直ぐに広まり、村の者は二人を受け入れた。

 



今にも溢れそうな土砂の湖。




あの状況を見た者は多くない。

 



詳しく話を聞きたい。

 



村人の興味はその一点に絞られた。

 




もう、誰もその事を疑っていない。

 



たきの誤解も、ゆっくりと溶け始めていた。

 





そして、木樵の者と村人が力を合わせ、五日ほどで一つ目の堰を完成させた。

 



その中に真魚の姿もあった。

 



だが、村を守る為には最低でもあと一つは完成させたい。

 



木樵の頭と真魚はそう考えていた。

 





 




その様子を木の上から見ている二つの影があった。

 


前鬼と後鬼だ。

 


真魚は湖の見張りを二人に任せていた。

 



「真魚殿にも…呆れたものじゃ…」 

 


後鬼がぼやいている。

 



「だが、これで村の者は一つになれた」

 


前鬼が言った。

 



「だが、何だか嫌な予感がする…」

 


「予感というか、気配じゃな…」

 


後鬼は何かを感じ始めていた。

 



幸い気候は安定している。

 



雨さえ降らなければ、しばらくは大丈夫であろう。

 


雨は雪を一気に溶かす。

 



山の雪が溶けてしまえば、水は土砂を越える。



越えた水が土砂を削り、決壊する。

 



「儂もじゃ、何かが腑に落ちぬ…」

 


その時…



うおおおおっ~



覚の叫ぶ声がした。

 


「媼さん!大丈夫か!」

 


前鬼が後鬼に確認した。

 



「鈴は鳴らぬ…」

 


「だが、覚はこの辺りの変化を感じ取る…」

 



何かが起こることは間違いない。

 



「ちょっくら様子を見てくるか…」

 



前鬼がそう言って木の上から跳んだ。

 



「うちはここで見張りをしておく…」

 



後鬼は谷の上流を見ていた。







一人の男が、木樵の作業場で呆然と立っていた。

 


木が無い。

 


隣の国に渡すはずの木が無い。

 


その事実に男は自らの未来を見ていた。

 


「どういうことだ…これは…」

 


しかも、作業場には誰一人としていない。

 



「半月もすれば約束の日だ…」

 


男はそう言って奥歯を噛みしめた。

 



二人の付き人は、おろおろして廻りを見渡している。

 


着物から判断すると貴族であることは間違いない。

 


だが、身分はそれほど高くない。

 


これほどの山奥に高い身分の者は来ない。

 


目が大きく、細長い髭が鼻の下と顎から伸びていた。



いつも来ているという、役人であろう。




「何を…どうすれば…こうなるのだ…」



声が震えている。

 


完全に冷静さを失っていた。

 



「捜せ!誰でもいい、連れて参れ!」

 


男が怒鳴った。

 


二人の従者は走って消えた。





挿絵(By みてみん)




続く…








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