空の宇珠 海の渦 外伝 精霊の叫び その十八
「早速で悪いが、これを頼む…」
真魚が懐から何か紙を出した。
そして、木樵の頭に見せた。
「お主、これを…一人で考えたのか…」
頭の顔が険しくなった。
「俺たちは木樵だぞ…」
「大工がいるなら雇ってもいい、見かけはどうでもいい強さだ…」
その紙に書かれた堰の作り方。
それは理にかなったものであった。
木樵であってもそれはわかる。
「急がねばならない、今からその場所に行く」
真魚がそう言って、頭を呼んだ。
「木を運ぶ準備をしておけ!」
頭が男達に言った。
「みんな、頼んだわよー!」
菜月が叫んだ。
「ちぃっ!あいつは一体何者なんだ…」
「結局、仕事を増やしただけだ!」
崑が怒りを表面に出している。
「お頭が勝てぬ男など、見たことがない…」
谺は真魚の力に驚いていた。
「お頭だって負けることはあるさ!」
崑は事実を受け入れていない。
「違うんだ、崑!お頭は全く動いてないんだ…」
「何か術を使ったのではないのか?」
「俺にはそうとしか思えん」
崑が見たものと、谺が見たもの…
同じ出来事が、全く違うかのようだ。
起こった事は同じだ。
問題は、受け取る側に存在するのだ。
「俺は…あの男を信じて見るよ」
谺が崑に言った。
「俺は、お頭のいうことは聞いてやる、それだけだ!」
崑が谺に言った。
信じて動く者。
疑いを持って動く者。
人はそれぞれの価値観で生きている。
例え、行動や結果が同じであっても。
たどり着ける場所が違う。
選択し、行動を起こした瞬間。
既に、違う世界に生きていると言う事なのだ。
真魚と木樵の頭は、堰を作る場所を見に来ていた。
菜月と桜もついて来ていた。
指定した場所は、村から見えるほど近い場所であった。
「ここから順に上に向いて作って行く」
真魚は木樵の頭に説明を始めた。
「ここなのか…もっと上の方が良いと思うのだが…」
木樵の頭の言う事には理由があった。
「ここまで来れば、水の勢いも相当なものになるぞ…」
「出来れば三つの堰を作りたいのだ…」
「徐々に勢いを止めたい…」
「三つもか!」
頭は真魚の考えに驚いていた。
村を守る為に、三つは必要だと考えている。
それだけのことが起こる。
そう思ったからだ。
「それに…ここなら村からも見える…」
真魚が言った。
「それが、どうかしたのか…」
木樵の頭が怪訝な表情を見せた。
「そうか!」
菜月が叫んだ。
「ここなら、村の人にも分かる!」
菜月の波動が広がっていく。
「なるほどな…」
桜が感心していた。
「お主らは、何を言っているのだ…」
木樵の頭には、その意図が全く理解できなかった。
「村の人にどう伝えたらいいのか、迷っていたの…」
菜月がその理由をお頭に話した。
「たきばあちゃんの事があってから、村の人は信用しなかった…」
「だけど、それは起こっっていたの…」
「でも、村には被害がなかった…」
「あの時はね…」
菜月はその事実にたどり着いていた。
「見直したわ、菜月…」
桜も菜月のその考えを受け入れていた。
「でも、堰を見たら村の人も気がつく…」
「あれは、何の為に作っているのだろうって…」
菜月はその未来を見ていた。
「そして、誰かが動く…」
「あの土砂でせき止められた、湖を見に行く…」
「誰かに言われたのではなく、自分から動く…」
「自分が創り出した未来は、疑わない…」
「それが、村中に広がっていく…」
桜も同じ未来を見ていた。
「なるほど…そういうわけか…」
木樵の頭もようやく理解出来たようだ。
「三つ出来れば村は助かるだろう…」
「だが、それまで土砂が保つかどうかは分からぬ…」
真魚はそう見ている。
「間に合わなければ…」
木樵の頭が最悪の未来を見ていた。
「逃げ場は必ず確保しておくのだ、その時は必ず来る…」
「村人も逃げる必要がある」
「それとなく…噂を撒いてもらえれば助かる…」
真魚は木樵の頭に、考えの全てを伝えた。
「早い方がいいな…」
木樵の頭が言った。
「そうだな…」
真魚がそう答えた。
続く…