空の宇珠 海の渦 外伝 精霊の叫び その十四
嵐の上で、菜月は村人に伝える方法を考えていた。
「真魚、神様ってみんなに見える?」
「神に形はない…」
「同じ音でも、聞ける者と、聞けない者がいる…」
「それに似ている…」
菜月の問いに真魚がそう答えた。
「誰にでもと言うわけには、行かないわよね…」
それを聞いた桜が言った。
「嵐は見えるじゃない…」
菜月の目の前のある神の姿。
「嵐は器に閉じ込められている…」
「その器が見えているだけだ…」
「特別な形と言って良い…」
真魚がそう答えた。
嵐がその器を維持するための霊力は途方も無い。
嵐が大食漢なのはそのせいだ。
「村の人にわかって貰う方法って、ないかしら…」
菜月はそれを考えていた。
「木樵の頭はどうだ…」
真魚が言った。
「できれば会って話をしたいのだ」
「谺の力も借りたい…」
「谺の力って…」
菜月が考えた。
「堰を作るのだ…」
真魚がその考えを告げた。
「できれば石が良いが、間に合わぬ…」
「木で堰を作り水の力を弱めたいのだ…」
「木でも沢山作れば、少しは保つであろう…」
真魚はそう言ったが確信はない。
だが、出来る事はやった方が良い。
そう考えていた。
「私が谺に話しに行く」
菜月がそう言った。
「谺は覚の声を聞いている」
「後は頭を説得するだけだ…」
真魚はそう考えていた。
「私より、菜月の方がいい」
「菜月の言うことは聞くと思うよ、兄貴は…」
「私はもう一つの方法を考えてみる…」
桜は村人を説得する方を選んだ。
「信じなければ人は動かぬ…」
「だが、信じれば人は変わる…」
今の菜月には、真魚のその言葉が受け入れられる。
「私もそうだった…」
「嵐、あの森に下りてくれ…」
真魚は木樵の作業場の側を選んだ。
「分かった」
嵐が矢のような速さでその森に下りた。
そこから、作業場まで歩き始めた。
その時…
うぉおおお~
獣の声がした。
こーん
こーん
木を斧で切る音がしていた。
谺が作業をしている。
その側に仕事嫌いの崑もいた。
頭の目が光っているときは崑も真面目に仕事をしているようだ。
「崑、この前の話なんだけど…」
谺が崑に話しかけた。
「何の話だ…」
「水だ…水の味だ…」
谺の問いかけに、崑が不思議そうな顔をした。
「興味があるのか…」
崑が手を止めて谺を見た。
「水ではないのだ…」
「では、何だ…」
「なぜ、味が変わったのか知りたいんだ…」
谺がそう言った。
はははっ
崑が笑った。
「それを知りたいのは俺の方だ…」
「良い水が無ければ良い酒は造れぬ…」
崑が言うことはもっともだ。
それが、分かれば苦労は無い。
水の味に自信が無ければ、全ての迷いの元になる。
「だが、一つ言えることはこの山だ…」
「山…?」
「山というか…森の木だな…」
崑があることに気づいていた。
崑の考えの中に、たきの教えがあった。
「水は森が造る…」
それはたきの教えだ。
僅かな変化でも、それは何かが起こった証だ。
その変化の意味を知る事で未然に防げる事もある。
「覚はやはり…知っているんだ…」
谺がつぶやいた。
その時…
うぉおおお~
獣の声がした。
「覚か…」
だが、いつもの鳴き声と違う。
谺に不安がよぎった。
「近いのか…」
何かが起こる…
谺の考えは確信に近かった。
続く…