空の宇珠 海の渦 外伝 精霊の叫び その十二
翌朝、陽がのぼる前に、真魚と嵐は警告の場所にいた。
本来の姿となった嵐が、真魚を背中に乗せている。
真魚はその光景を、空から見ていた。
「なるほど…」
真魚が考えている。
「こんなことになっておるとは…」
嵐はその状況を見て言葉が出ない。
「前鬼が言うとおり…そう長くは保つまい…」
出来る事は多くない。
真魚はそう考えていた。
先ずしなければならない事は、村人にこの状況を知らせることだ。
その時の為に、準備が必要だ。
そのためには、信頼の厚い者に知らせる必要がある。
そして、村人を説得して貰うしか無い。
真魚やたきではだめだ。
菜月でもだめだ。
「嵐、谷に沿ってゆっくり飛んでくれ…」
「分かった…」
嵐は真魚の言うように、谷に沿ってゆっくりと飛んだ。
真魚は谷の地形を見ている。
「止められぬのか?」
嵐が真魚に聞いた。
「相手が、相手だからな…」
「恐らく…こちらの手をすり抜ける…」
「そうかも知れぬな…」
嵐は真魚の言葉に納得していた。
「で、どうするのだ…」
「場所捜しだ…」
「場所…?」
嵐がその言葉に捕まった。
「何の場所だ?」
「少しは弱めることが出来るかも知れない…」
真魚はそう考えていた。
「ん!」
真魚が何かを見つけた。
「嵐、あの崖の上に行ってくれ…」
真魚が指を指した。
嵐は真魚の指さしたその場所に飛んだ。
「これか…」
真魚が言った。
谷が二つに分かれていた。
「これがどうかしたのか…」
嵐にはただの景色だ。
「お主、また良からぬ事を考えておるな…」
真魚が笑みを浮かべていた。
「お楽しみだ…」
真魚がそう言って微笑んだ。
菜月と睦月も日の出と同時に動き始めていた。
だが、食料をどこに集めればいいかも、分からなかった。
「村のことは真魚には分からないし…」
とりあえず、たきに相談することにした。
桜にも手伝って貰わなければならない。
「桜、いる?」
挨拶もなしに家に入った。
谺は既に仕事に出かけていた。
「何をしているの?」
たきと桜が竃の前で、せっせと何かを作っていた。
「非常食じゃ…」
「真魚に頼まれたの?」
「わしを誰だと思っておる…」
たきが菜月を見て笑った。
「そ、そうよね…」
何か大きな事が起こる。
それは間違いない。
たきがその事に気づかない筈がない。
「真魚殿が来られたと言うことはそういうことじゃ…」
「その時が迫っておる…」
たきが見ている未来は間違っていない。
「もう一つ何か頼まれておるじゃろ…」
「そんな事まで分かるの…」
「そう言う顔をしておる…」
たきは菜月に容赦なかった。
「ここは睦月に任して…」
桜が立ち上がった。
「睦月、頼んだよ!」
桜は見かけによらず男っぽい性格のようだ。
「よし、私達はそのもう一つを…」
「で、菜月、もう一つってなんだ」
桜が菜月の前に立った。
菜月は桜の耳もとで言った。
「なるほど…そういうことか…」
桜は真魚の指示に驚いていた。
「菜月…これは相当にやばいということだぞ…」
頭のいい桜は直ぐにその事に気がついた。
「そうかもね…」
「では、行くぞ!」
桜が先に家を出た。
その後を菜月が追いかけた。
「ねえ、たきばあちゃん…」
「これだけで足りるの?」
菜月が桜の話を聞いていた。
「相当やばいって…」
「桜といい、菜月といい、何処か抜けとるな…」
たきは二人の姿を目で追った。
「ま、足りぬであろうな…」
「じゃが、直ぐに食べられるものはそれほど必要ない…」
「あとは食料をどれだけ集められるかじゃな…」
「それさえあればどうにかなる…」
「でも、村の人に手伝ってもらわなきゃ…」
睦月はその事が気になっていた。
「今は儂らに出来る事をするだけじゃ…」
「そのうちに村人の考えも変わる…」
「そのうちって…」
「そのうちじゃ…」
たきは睦月を見て微笑んだ。
続く…