空の宇珠 海の渦 外伝 精霊の叫び その十一
谺と別れ、菜月の家の近くまで来た。
「明日から頑張らないと!」
菜月の力の入れ具合は傍目からでも分かる。
「大丈夫かな…」
睦月が心配している。
それには理由があった。
「お姉ちゃんが頑張ろうとすると、良くない事が起きるし…」
「今回は大丈夫よ、それに睦月、あなたも手伝うのよ!」
「えっ、私も!」
「当たり前でしょ、一刻を争うのよ!」
睦月の心配をよそに、菜月は相当力が入っていた。
「俺たちは一度ここを離れる…」
真魚が言った。
「えっ、何処かに行っちゃうの?帰ってくるんでしょ?」
菜月が心配している。
「悪いが、村の者を説得する時間は無い…」
「覚の話を聞いたら戻ってくる…」
「分かっているわ…約束よ!」
菜月の目は真剣であった。
「例の件は任せておく、睦月もな…」
真魚が菜月と睦月に微笑んだ。
「任せておいて!皆で頑張るわ!」
菜月が笑って真魚を見た。
菜月達と別れ、真魚達は森に入った。
木樵の作業場から奥に向かって進んだ。
そこで日が暮れてしまった。
仕方なく野宿することにした。
真魚は適当な場所を見つけ、瓢箪から金色の布を取り出した。
木の枝に結び、広げた。
あっという間に金色の屋根ができあがった。
その瞬間に布が消えた。
表面に景色が映り込んで、見えなくなったのだ。
「あいつら…覚とやらに会えたのか…」
嵐が心配している。
「珍しいな…お主が心配するなど…」
真魚が嵐の変化に笑っている。
「俺は菜月達を心配しておるのだ」
「覚に会えなければ何も始まらぬ…」
「その時は、お主が飛んで行って見つけるしかあるまい…」
「それも…そうか…」
まだ、道は残されている。
それが救いであった。
「だが、心配はなさそうだ…」
ぱん!
真魚が手を叩いた。
うひゃひゃひゃひゃ~
下品な笑い声が森に響いた。
「今日は儂の勝ちじゃな、媼さん!」
前鬼の声が聞こえた。
「いや、うちの勝ちじゃろ!」
後鬼の声がした。
「お主ら、相変わらずじゃのう…」
嵐が呆れている。
「ところで、覚に会えたのか?」
「会えたから、ここに来ているのじゃ」
後鬼がそう言って、背中の笈を地面に置いた。
「それで、どうなったのじゃ…」
嵐が話を待っている。
「話は出来なかったが、覚に案内された…」
「案内じゃと…」
「そうじゃ…警告の場所じゃ…」
「お主らはそれを見たと言うのか!」
嵐が興奮している。
「見た…」
「それでどうなのじゃ…危ないのか?」
「残念じゃが…このままだと村は全滅する…」
前鬼から出た恐ろしい言葉。
「全滅…じゃと…」
嵐がその答えに驚いている。
「真魚殿の予想通りじゃが…」
後鬼が言いかけて止まった。
「じゃがなんだ!」
嵐が答えを聞きたがっていた。
「それを超えておる…」
「超えている…?」
後鬼の答えが嵐には分からない。
状況を予想したのは真魚だ。
「それで…どれくらい保つ…」
真魚が前鬼に状況を確認した。
「何も無ければ十日ほど…でしょうか」
「あと、十日しか保たぬのか!」
嵐がその事実に驚いていた。
「何も無ければじゃぞ…」
「それより遅いことは無いのか…」
嵐の頭で、そこまで分かったことは素晴らしい。
「嵐、夜明けと同時に見に行くぞ…」
嵐に気合いが入った。
菜月達を見殺しには出来ない。
「任せておけ…」
「借りは返さぬとな…」
嵐は菜月達のことを考えていた。
続く…