空の宇珠 海の渦 外伝 精霊の叫び その九
森の中で何かが動いていた。
黒い影。
しかも、大きい。
前鬼と後鬼はそれを追いかけて森の中に入った。
「媼さん、あれをどう思う…」
前鬼が言った。
木の上で黒い影を見ていた。
その影もまた木の上にいる。
人よりも二回りは大きい。
それが木の枝に座っている。
その大きさにもかかわらず、木の枝は撓みもしない。
軽々と座っている。
そのように見える。
重さを感じないのだ。
「何かが…集まったものか…」
後鬼はそう答えた。
「だが、邪気は感じぬな…」
更にそう付け加えた。
その黒い影の廻りに集まる、小さな影があった。
黒い影を守るように囲んでいる。
「猿か…」
前鬼はその影をそう判断した。
「黒い影は、群れの頭ということか…」
後鬼がその正体に近づいていく。
「ん…」
前鬼がその動きの変化を捉えた。
「気づかれたか…」
前鬼はそう感じた。
群れが動き、移動を始めた。
森の奥に向かっていく。
「儂らも行くぞ…」
前鬼が木の枝を跳んだ。
それほど急ぐ気配も無く、群れが移動していく。
それを、前鬼と後鬼が追いかける。
群れの速度は保ったままだ。
しばらくは、そのままついて行った。
「媼さん、何かおかしくはないか?」
前鬼がその事に気がついた。
「うちも思っていたところじゃ…」
「ひょっとして…これは…」
後鬼もその事実に気づいていた。
「儂らを誘っているのか…」
付かず離れず。
前鬼と後鬼が後をつけたつもりであった。
だが、そうでは無かった
「儂らが見失わぬように、距離を保っておる…」
「何かあるのか…この先に…」
前鬼はそう感じた。
「うちらが…案内されているのか…」
後鬼がつぶやいた。
「そのようだな…」
前鬼はその先の何かを考えている。
「行ってみるしかなさそうじゃな…」
後鬼は意外に楽しそうである。
「それも、そうだ…」
前鬼も同じ考えであった。
しばらく行くと光が見えた。
森が切れた。
切れた場所から光が射しこんでいる。
「あんな所で森が消えるのか…」
前鬼はその事実を疑った。
普通では有り得ない。
「媼さん、気をつけろ…」
前鬼は後鬼に警告した。
光の側まで行った。
「これは…」
森が突然無くなっていた。
山が崩れ、そこから先は奈落だった。
「これを、見せたかったのか…」
そこには目を疑うような光景があった。
「なんと…」
後鬼は目と自らの心を奪われた。
壮大なる光景が後鬼を捉えた。
だが、別の意味では恐怖そのものでもあった。
相反する二つの物が同時に存在した。
「真魚殿に伝えねば…」
後鬼が言った。
「急がねばならぬな…」
前鬼もその光景から目を離せなかった。
気がつけば猿の群れが消えていた。
うおぉっお~
獣の叫びが山に谺した。
同時に猿たちが叫んだ。
「あのもの…」
前鬼がその波動を感じていた。
「ただの集まりでは…なさそうじゃな…」
後鬼がそうつぶいた。
続く…