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空の宇珠 海の渦 外伝 精霊の叫び その八






たきの家では、ささやかな宴となっていた。



「何もございませんが、どうかお召し上がりください」

 


たきは皆に食事を勧めた。



そこに一人の少女が現れた。





挿絵(By みてみん)





谺の妹、桜であった。



髪が長く、一目で美しいと言える顔立ちであった。

 


谺の妹とは誰も思うまい。

 


「おばあちゃんはね、この方を待っていたのよ…」


 

桜が言った。



誰にでも無い。

 


菜月に伝えたのだ。

 



「真魚を…どうして?」



菜月と桜は幼なじみで同じ歳。

 



気心が知れている。

 



だが、その話は初耳であった。




「出会ってしまったからよ…」



桜は、たきと真魚の出会いをそう表現した。


 



「俺が聞きたいのは、獣の叫びだ…」

 



「あの叫びを、お聞きなされたか?」



真魚が切り出した話に、 たきは何かを感じていた。

 



「あのものにも、好かれている様ですな…」




たきは笑みを浮かべた。




真魚が聞いた叫びは、真魚に伝えるためかも知れない。




たきはそう言っているのだ。

 



「あれは(さとり)という物の怪じゃ…」




「物の怪って…妖怪か何か?」



菜月は、今まで気がつかなかった。

 

 


「俺には悪いものとは思えんが…」

 



「さすが…」



「真魚殿で構わぬか…」



真魚の呼び方に、たきは戸惑った。




真魚はたきよりも身分が高い。




だが、真魚はそんなことは気にしない。



「それで構わぬ…」

 


真魚が笑った。

 



「覚が、人に危害を加えた事は一度も無い…」



「あれはただ、見ているだけだ…」




「まるで、神のようだな…」


 

たきの説明を聞いて、真魚がそう表現した。




「真魚殿は気づいておるじゃろ…」

 


「あの鳴き声は警告じゃ…」


 

たきが言った言葉は、皆に向けてのものだ。

 



「警告…」

 

「だったら…何とかしないと…」

 


菜月が声を上げた。

 



「それが、簡単には止められぬのじゃ…」



難しい現状に、たきの考えがまとまらない。

 


「山を壊すなって言う、睦月の聞いた声と関係があるの?」

 


菜月がたきに聞いた。

 


「まさしくその事じゃ…」

 


たきがその答えを告げた。

 


「鉄が採れなくなったが、倭への税は未だに鉄だ…」




「何故その事を…」

 


たきが真魚の言葉に驚いていた。



「知り合いがいて…来る前にちょとな…」

 


真魚は言葉を濁した。



だが、真魚が起こそうとしている事に、その繋がりは必要である。

 



「鉄を作るための木を肩代わりに、鉄を工面してもらっているのだな…」

 


真魚は既に事実を掴んでいた。

 



「隣の国にな…」


 

たきは全ての事情を把握していた。



ただの老婆ではなさそうだ。




「どうすればいいの?」

 


菜月には難しいことは分からない。

 


やれることしか出来ない。

 



「税を別の物にするしか無い…」

 


「だが、そんな事は後でいい…」

 


真魚がそう言って、たきの顔色を伺った。


 


「恐ろしいお方だ…真魚殿は…」

 


たきは真魚を見て微笑んだ。



 

間違っていなかった。

 



たきが仕込んだ言霊。

 


その笑みの中に、その言葉が隠されていた。

 



「一刻を争う…」

 


たきがそう言った。

 



「だが、今ならまだ…間に合うかも知れぬ…」

 


真魚がそう言った。




「お主ら食わぬのか…」


 

どこからか声が聞こえた。

 



「嵐、あんたって!」



菜月が驚いている。


 


皆が話している間に、嵐が用意された食事を食べていた。



睦月がほおづえをついて、それを楽しそうに見ていた。

 



「睦月…今、その犬喋らなかった?」

 


桜がその事に気づいた。

 


菜月が笑っている。

 


次に、嵐が何を言うのか気づいている。

 



「犬では無い、俺は神だ!」

 


嵐が言った。

 


「そう言うことなの」


 

菜月は桜を見て笑った。


 

「私はもう疑わない、みんなを信じてる」

 


菜月はそう宣言した。



それは、運命を共にする決意でもあった。

 



「あなた…神様まで連れて来たの…」

 


桜は驚いていた。

 


「だから、覚の事もわかるのよ…」

 


菜月の言葉に桜が気づいた。

 


「菜月、滝の裏に行ったわね…」

 


睦月を見た。

 


睦月が笑って舌を出した。

 


「その事はいいのじゃ…儂が仕組んだ事じゃ…」

 


「全てが感じた通りなら、真魚殿はそういうお方と言うことだ…」

 


「しかも、神の化身まで連れておる…」

 



「お主、少しは分かる様だな…」



たきの神の化身と言う言葉に、嵐がそう返した。

 



それは、嵐の本来の姿を見ていると言うことだ。

 



「それにしても…嵐…」

 


菜月が嵐を見た。

 



「どうしたのだ、皆の分は残してあるではないか…」

 


「これが…」

 


器の中に少しずつ。

 


後は嵐が食べてしまっていた。

 



「嵐、借りを作ってしまったな…」

 


真魚が笑って言った。

 



「ちと…足りぬがな…」

 


嵐が舌で口元を舐めた。

 



「足りないんだ…」



桜が呆れていた。

 


「私も手伝うか…」



菜月が立ち上がった。

 


「まだ、次があるのか?」

 


嵐が喜んでいる。

 


「それ、全部食べていいわよ!」

 


「違うのが来るのだろ…」



嵐はそれを楽しみにしている。



「あなたの分はあるかしら…」



菜月がそう言って、空になった器を引き上げている。

 


「借りは沢山作っておいた方がいいぞ!」



嵐が菜月に言った。

 


「ちゃんと返して貰うわよ!」

 


菜月が嵐に言った。

 


「契約成立だな…」

 


真魚が笑って見ていた。

 





挿絵(By みてみん)





 

続く…





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