空の宇珠 海の渦 外伝 精霊の叫び その六
「どうしたら止められるの?」
動き出した心と、見えない方向。
菜月は二つの間で揺れていた。
「精霊の声を聞けばいい…」
真魚が言った。
「出来るの…私にも…」
「睦月はできるのだぞ…」
真魚の言うことは間違ってなかった。
知りたい。
どうしたら村を守れるのか。
菜月は決めた。
「教えて、そのやり方!」
「目を閉じて、心を開く…」
真魚は菜月を見て微笑んだ。
「やってみる!」
菜月は目を閉じて、感じようとした。
「睦月もやってみろ…」
真魚の言葉に睦月も目を閉じた。
真魚が真言を唱えた。
光の輪が発動した。
下から順に廻りは始めた。
それと同時に身体が輝いてく。
「心の奥にその扉はある…」
「心の奥…」
菜月は心の中を進んで行く。
真魚の光が二人を包み込んでいく。
そして、真魚が自らの回路を開き、生命を送り込んだ。
その時…
「これ…」
心の奥にある光を、菜月は見つけた。
「想いを繋げ…」
「繋ぐ…どうやって…」
菜月はその方法が分からなかった。
「全てを捨て、全てを受け入れろ…」
真魚が言った。
「全てを…受け入れる…」
「それが…心を開くことなの…」
菜月は、その意味が分かるような気がした。
今までの自分では、その声が聞こえない。
『あるはずがない』と思っていた。
だけど、それは存在する。
真魚は、二人に生命を注ぎ込んだ。
「あっ!」
菜月が思わず叫んだ。
光が飛び込んでくる。
心の中に。
そして、光が弾けた…
気がつくと、金色の光で満たされていた。
「何…これ…」
身体が自然に動く。
自らの意思では無い。
何かに動かされている。
菜月が両手で何かを掬っている。
それを自らの額の上まで上げた。
「想いを込めて見よ…」
菜月はその想いを捧げた。
動き出した両手が、今度は胸の前で止まる。
光の粒が集まり、菜月の手の上で形を作る。
桃のような形をしたもの。
涙が溢れていた。
菜月はその光を抱きしめた。
菜月の想いを込めた宝の珠。
菜月は、それを抱きしめて泣いていた。
理由も無く涙が溢れてくる。
儚く切ない感情。
その中に全てが存在していた。
生命…
そうかも知れない。
魂…
そうかも知れない。
神…
そうかも知れない。
大いなる慈悲の光が、菜月を包み込んでいた。
儚い生命を抱きしめて、菜月は泣いていた。
「良いものを頂いたな…」
真魚が微笑んだ。
菜月はそれを心にしまった。
舞い降りる光の粒。
その一つ一つが教えてくれる。
大切なもの。
菜月は、言葉では無い会話をしていた。
「おねえちゃん…」
睦月も驚いていた。
「神様っているのね…」
睦月も泣いていた。
大いなる光。
睦月はその中に神を感じていた。
「これぐらいで良かろう…」
真魚がそう言った。
光が帰って行く。
扉が閉じていく。
気がつくと元の世界に戻っていた。
菜月と睦月は抱き合ったまま泣いていた。
続く…