空の宇珠 海の渦 外伝 沈黙の微笑 その十九
夕焼けが山を照らしている。
ほのかに色づいた山に、深みを与えている。
のどかな村に夜が訪れようとしていた。
真魚と雫の家族は、陽炎の家で一晩、過ごすことになった。
それは陽炎の願いでもあった。
あれから半日。
それだけの時間が過ぎただけだ。
だが、濃密な体験が、皆を家族の様に繋いでいた。
「ところで、お主らは今まで何をしておったのじゃ?」
子犬の嵐が気になっていたことを、後鬼に聞いた。
「ちと、真魚殿に頼まれた仕事をな…」
後鬼は含みのある笑みを浮かべた。
「そんなことはわかっておる!」
「四つの国を巡り、霊気の場を捜しておったのじゃ!」
「ついでに温泉にも入ったのだぞ!」
「この肌の艶を見てわからぬか?」
袖をめくって嵐に見せた。
「俺の目は、そんな物を見るようには、出来ておらん!」
嵐が目を瞑って言った。
「そんな物とはなんだ!」
ふふふっ
雫が思わず笑った。
「嵐って面白い…」
嵐は片目を開けて雫を見た。
「俺は面白くないぞ!」
「見ているお主が面白がっているだけだ…」
嵐が雫に言った。
ん!
ん!
嵐がその事に気づいた。
「雫、陽炎と露は何をしておるのじゃ?」
入り口を入った所に竃があった。
そこからいい匂いがしてきた。
「お腹空いたでしょ?」
「お主は手伝わないのか?」
一刻も早く食べたい、嵐の願いはそれだけだ。
「二人で話すことも、あるのかなぁって思って…」
雫は二人の姿を見ていた。
竃の側で二人が寄り添って話をしている。
「何だか、不思議な気持ち…」
二人の母。
その背中を雫は見ていた。
何を話しているのだろう?
仲の良い姉妹の様に、二人は接している。
「嵐のお兄さんはどうだったの?」
自らを守ったかも知れない青嵐。
雫は少しだけ知りたくなった。
「俺よりも気高く、強く、慈悲深い…」
「なぜ、この地に来たかは分からぬが…」
「不穏な空気を感じ、お主を守った事は理解出来る…」
「それが兄者だ…」
その慈悲深さが、後に青嵐を苦しめる事になる。
嵐はその苦しみを知っている。
「今は嵐の中にいるの?」
「ああ…感じている」
「そうなの…」
嵐の心を雫は感じている。
「こやつはどうか分からぬが、青嵐は信用できるぞ…」
後鬼が話に入ってきた。
「私は、嵐の兄弟に救われたのね…」
雫が微笑んだ。
「お主が呼んだのかも知れぬぞ…」
嵐が言った。
後鬼は笑みを浮かべて雫を見ている。
「私が…」
雫が目を見開いた。
「ほら、今、繋げたであろう?」
後鬼が楽しげに雫を見た。
心の奥にある光の繋がり。
雫はそれを意識し始めていた。
「私が…」
雫はあの時、確かに見た。
そして、感じた。
心の奥にそれは存在した。
雫は目を瞑り、それを確かめていた。
続く…