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空の宇珠 海の渦 外伝 沈黙の微笑 その十八





村の者達が騒ぎを嗅ぎつけ、陽炎の家に集まって来た。

 


陽炎は事情を説明し、塊を屋敷に運んで貰った。

 



木葉が付き添って、塊の屋敷に行った。

 



そのうちに妻の鶸が何かを言いにやってくるに違いない。

 



「村の者にどう言ったのだ…」

 


後鬼が笑っている。

 





挿絵(By みてみん)





昼間である。

 


闇の姿を見たはずだ。

 


「兄上の憑きものを退治した…と言っておきました…」

 


「それで、村の者が納得したのか?」

 



「ええ…」

 



「あの男…村の者から相当嫌われていたようだな…」



後鬼がそう言って笑った。

 


憑きものを、村の者が信用したのである。

 


今までの塊の行いが、そうであったということだろう。

 



そして、それを陽炎が退治した。

 


村の者達は、その事実を受け入れたのだ。




「お主の評判も上がるという訳か…」




意図的では無いが、それを利用したことになる。

 



「私は、この村を出ようと思っています」



突然、陽炎が後鬼に言った。

 



「なぜ、そのようなことを…」



出会ったばかりの後鬼に、陽炎は心を開いていた。

 


それは、真魚を信頼している証でもあった。

 



「兄とはもういられません…」



陽炎は言った。

 



「それもそうじゃのう…」



事情は全て聞いている。

 


後鬼はその考えには賛成であった。

 



「それで、どこに…」

 


「雫の村に行こうと思います」

 



「隣村か…なるほど…」

 


後鬼は笑みを浮かべた。 

 


陽炎の決意の中に、慈悲の心を感じた。

 


「隣村であれば…ここの者達も頼れるであろうな…」

 



「はい…」

 


陽炎はそう答えた。

 


その答えの中に塊が含まれるかは、陽炎だけが知っていた。

 


 


しばらくすると案の定、木葉が鶸を連れて戻ってきた。

 



「陽炎様、奥様が…」

 


木葉が跋が悪そうに陽炎を見た。

 



「気にするな…分かっていたことだ…」



陽炎が鶸と話に出て行く。

 



「いざとなったら俺が行く…」



真魚が木葉の耳元でそう言った。

 



「佐伯様…」

 


木葉は頬を赤らめた。

 



「どうして、うちの人がああなったのよ!」



鶸の語気が荒い




「憑きものに襲われたのよ」

 


陽炎はそう説明した。

 


「憑きもの?うちの人が悪いって言うの!」




「命が助かっただけでも…」



陽炎が何を言っても、今の鶸には通じない。

 



「陽炎は全部知っているぞ…」



陽炎の後ろから声がした。

 



真魚であった。

 



「ぜ、全部って何を!」


 

鶸がその言葉に動揺を見せた。

 


隠していることがある。

 



それは間違い無い。

 



「生まれたばかりの陽向を、捨てたのは誰だ…」

 



「あ、あれは神隠しよ…」

 


鶸は額から流れる汗を手で拭った。

 



「そのうち…お主にも来るぞ…」

 


「何が来るっていうのよ!」

 



「憑きものだ…」

 


真魚は鶸にその言葉を埋め込んだ。

 



鶸の顔色が明らかに変わった。

 



自ら犯した罪が、その言葉を奥深く埋め込む。

 



有りもしない幻想を鶸に抱かせた。

 



「いいのか…陽炎だけが頼りだぞ…」



真魚は笑ってそう言った。

 



「それで、うちの人は助かるの?」

 


鶸は汗が止まらなくなった。

 


次は私の番。

 


その汗がそう言っている。

 


有りもしない幻想。

 


汗がそれを証明していた。

 



「命に別状は無いわ…」

 


「後で、木葉に薬を届けさせるわ…」


 

陽炎は鶸にそう告げた。

 


鶸はそれを聞くと、そそくさと帰って行った。




「間違いないな…」

 

真魚が笑っている。

 


「どうする、引き留められるぞ…」

 



「聞いていたのか…出て行く話を…」

 


「だが、もう関係ない…」

 


「あの女が、勝手に創り出した未来など知らぬ…」




陽炎が、長い間抱いた悲しみよりはずっとましだ。

 



「それもそうだな…」

 


真魚も同じ考えであった。




挿絵(By みてみん)





続く…








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