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空の宇珠 海の渦 外伝 沈黙の微笑 その十七






きっかけを失った闇が、嵐に行く手を遮られた。

 


そこに朱雀の炎が迫ってくる。

 


その炎で焼かれ、勢いが失われていく。

 



「嵐、腹の具合はどうだ…」



真魚が嵐を呼んだ。

 



「ぼちぼちってところか…」

 



「ならば…」




嵐の答えを聞いて、真魚の光の輪の耀きが増した。

 


棒に青い光が集まり、燃えた。

 



「青龍!」


 

青い炎の螺旋が天に向かう。

 




挿絵(By みてみん)




「征け!」

 


ぎゃいぃぃぃん!




真魚が棒を振ると、青龍が叫んだ。



そして、闇に向かって降下した。

 


青い炎を吐きながら、闇の中にその首を潜り込ませた。

 



その瞬間。

 



闇が固まっていく。

 



青龍の浄化の炎が、闇を変えていく。




青龍がその首を抜いた。




固まった闇が崩れ、塵になっていった。

 



「戻れ!」

 



真魚が叫ぶと朱雀と青龍は光となり、棒に吸い込まれた。

 



真魚が膝を着いた。

 



「大丈夫か…」

 


嵐が直ぐに飛んで来た。

 



「お主こそ、満腹なのか…」

 



「負け惜しみか…」

 


真魚の言葉に、嵐がそう言った。

 



「いいお仕事でしたな…」

 


聞き慣れた声。


 

後鬼が後ろに立っていた。

 



「何かと思って来てみれば、やはり真魚殿でしたか…」



前鬼も立っていた。

 



「お主ら、今頃なんじゃ!」

 


嵐が前鬼と後鬼を窘めた。

 



「誰かさんの、食事の邪魔はしたくなかったのでな…」

 


後鬼がもっともな言い訳をした。

 



「それより、真魚殿、お体は…」

 


後鬼が真魚を気遣っている。

 



「大丈夫だ、いざとなれば理水の厄介になろう…」

 


真魚がそう言って立ち上がった。

 



「この男は?」

 


直ぐ側に太った男が、泡を吹いて倒れていた。 




「闇にやられたようだ…」



真魚が笑っている。

 



「自業自得じゃ、こいつが呼んだのだからのう…」




嵐が前足で転がした。

 


塊が仰向けになった。

 



後鬼が胸に手を当て、様子をうかがった。

 



「命に別状はなさそうじゃ…」

 



「情けない!人の命を奪おうとしながら、自分はこの態だ」

 


嵐が怒りを露わにしている。

 



そこに陽炎が様子を見に現れた。

 



「兄上は…」

 



「生きておるぞ、心配は無い…」

 


後鬼が陽炎を見た。

 



「あなたは…」

 


陽炎は驚いていた。

 



額の角、溢れる波動、人では無い。

 



「見ての通り鬼じゃ、うちが後鬼、こっちが前鬼じゃ」

 


「真魚殿のお供をしておる」

 



「お供?」

 


神の犬…朱雀と青龍…そして、鬼。

 


陽炎がその言葉に呆れていた。

 



「お主、なかなかのものじゃのう…」



後鬼が、陽炎の波動を感じている。

 



「ま、真魚殿が行くところ、仕方が無いが…」


 

後鬼はそう言って笑っていた。

 



「どうする?」

 


「生きてはおるが、この男、しばらくは動けぬぞ…」



後鬼が陽炎に言った。

 



「しばらくとは?」




「魂の一部を食われたのじゃ…」



「ま、歩けるまで…ひと月というところじゃろ…」



後鬼は塊を見て言った。

 



「それぐらいで済むのなら、いい薬だ」




「薬だと?」



後鬼は陽炎と塊の関係を量っていた。




「兄上は、私の娘を殺そうとしたのです」

 


陽炎の怒りが収まった訳では無い。

 




「殺そうとした?では、生きておるのか?」




後鬼はそう理解した。

 



「ええ、生きていました…」

 



「このお方が、連れて来てくれました…」




陽炎の目に涙が浮かんでいた。

 



「なるほど…」

 


後鬼は微笑んで真魚を見た。




「俺と言うより、嵐だな…」



真魚が笑っている。

 



「お主、また何か悪さをしたのか?」



後鬼は嵐を見た。

 



「あ~あ、疲れた」



嵐はそう言って子犬の姿に戻った。




「お主らは俺を偏って見ておる!」



嵐に対する評価、その事を言っている。

 



「俺は、食い物の臭いに惹かれただけじゃ!」



嵐が堂々と言い訳を言った。

 



「臭いは臭いでも、食い物の臭いか!」



後鬼が呆れている。

 



「嵐のおかげです」



陽炎はそう思っていた。

 


「山に捨てられた娘を、嵐に似た犬が守ってくれたようです」

 



「嵐に似た…」

 


「もしや、青嵐のことか!」



後鬼はその言葉に驚いた。

 



「残念じゃが、兄者の記憶は俺にはない…」 



融合し一つとなった今、青嵐の記憶は消えている。

 




「長い間、死んだと思っていたのです…」

 



「私にとっては奇蹟です」

 


陽炎は感謝していた。

 



「そういうことが…」



 

後鬼が近寄ってくる者達を見ていた。

 



「それに、家族が増えました」

 


そのもの達を見る陽炎の目は、優しさに満ちていた。





挿絵(By みてみん)





続く…









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