表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
256/494

空の宇珠 海の渦 外伝 沈黙の微笑 その十五






塊は坂を登る。

 


憎悪を纏い走っている。 

 


だが、その体力も既に、限界に来ていた。

 


自らは走っているつもりだ。



だが、身体は前に進んでいない。

 


後ろで口を広げる黒い穴。

 


塊の生命(エネルギー)が吸い寄せられている。

 



塊はその事にまだ気づいていない。

 


ただ、理由の分からない苦しみに、憎しみを重ねる。

 




挿絵(By みてみん)




この世は二極。

 


強い光は濃い影を生む。

 



塊は、してはいけない過ちを犯した。

 


「あの男さえ来なければ…」



その憎しみの矛先を、あの男に向けたことだ。


 


佐伯真魚。




強い光は、強い影を生む。

 



塊の憎悪など、ただのきっかけに過ぎない。





「そろそろか…」



真魚がそう言った。

 



「陽炎、すまぬが奴は後回しだ!」



そう言った時には嵐の姿は無かった。

 



のどかな風景にそぐわない黒い穴。

 


その中から黒いものが吹き出した。

 



形の無い黒いもの。

 


それは見る者の恐怖そのものとなる。

 



見る者の恐怖が、自らの心ににその姿を見せる。

 



「何だ、あれは…」

 


陽炎が口を押さえている。

 



そのものを見た陽炎が、吐き気に耐えている。

 



距離は関係ない。

 



その黒き重い波動が陽炎を苦しめる。

 



「俺たちは闇と呼んでいる…」



真魚が右手に持った棒を前にして、左手で手刀印を組んだ。

 



真魚の七つの輪と同時に、棒が輝いた。

 


「玄武!」

 


棒の光が溢れ、光の盾が現れた。

 



光り輝く亀の甲羅。

 



それが皆を包み込んでいた。

 



「これは!」




陽炎の吐き気が止まった。 

 



「この中から絶対に出るな…」

 



真魚はそう言い残して闇に向かった。

 



 

「何だ、これは!」

 



塊が振り返った。




背中に走る悪寒。




それに耐えられなくなった。



 

そこに黒い化け物がいた。

 



そのものに形は無い。

 



塊にはそう見えただけだ。

 



「ひえぇっっ~!」

 



塊が情けない声を上げて、腰を抜かした。

 



もう逃げる力も無い。

 



黒い触手が塊を捉えた。

 



「あわっっわっ!」

 


それを必死にふり払うが離れない。

 



その触手は身体を掴んでいるのでは無い。

 


塊の魂を捕まえ、食らう。

 



物質である身体はすり抜ける。




生命が食われていく。

 



身体はもう動かなかった。

 



その時…

 



光が塊の目の前を奔った。

 


急に身体が楽になった。

 



「逃げろ…死ぬぞ…」

 


金と銀に輝く巨大な山犬。

 


それが、塊に言った。




「ひえっっっ~」



地面を這いながら塊は必死に逃げた。

 


這い這いの子供より遅い。



力はもう残っていない。 



着物の膝は破れ、血がにじんでいる。

 


手の平も血まみれだ。

 


それでも、塊は必死になって逃げた。

 



必死になって生にしがみついた。

 



生きたいと願った。

 



這いつくばる塊の目の前に、人の足が見えた。

 



男が立っていた。

 



「お、お前は…」

 


憎悪の矛先を向けた男。

 



「お主でも、生きたいと思うのか…」

 


塊には目もくれない。




「だが、それでいい…」



「まだ、やり残したことがあるはずだ…」



真魚は闇から目を離さずにそう言った。





挿絵(By みてみん)



 



続く…








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ