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空の宇珠 海の渦 外伝 沈黙の微笑 その六





塊は不機嫌そうに金塊を懐に入れた。

 


木葉(このは)、奴らを陽炎の所に案内せい…」

 



「はい!」



下女(しもおんな)と思われる少女は、塊の言葉に笑みを浮かべた。




「ほう…」



喜びの波動。

 



少女の心からその波動が放たれた。

 



「面白い…」



少女の笑みの意味。




真魚はそれを感じ取っていた。


 



挿絵(By みてみん)





その木葉という少女に連れられ、真魚達は塊の屋敷を出た。

 



「佐伯様、ありがとうございます」



雫の父、辰は真魚に頭を下げた。

 



「あのような男に、いつまでも付き合う必要は無い…」



塊と言う男…



真魚はその中にあるものを見ていた。

 



「でも、どうして私共のような者に施しを…」



雫の母が真魚の行動を、不思議に感じている。

 



「あのような所で出会ったのも、何かの縁だ…」



真魚はそう言って笑みを浮かべた。

 



そう言いながらも、前の木葉の事を気にしている。

 



「縁でございますか…」



雫の母は納得はしていない。

 



納得はしていないが、真魚の好意を有り難く感じていた。


 



「嵐、佐伯様ってなんだか違う…」



雫は真魚の事を気にしていた。

 



「恐ろしい奴だ、何度もひどい目に遭わされている」




「あなたは神様なんでしょ?」




神様が人を畏れている。

 


雫は不思議に思っている。

 



「まあ、今に分かる」

 


嵐が何かを感じている。

 



この先にある何か…

 



既に、真魚の未来もそこにあるのである。






そこは、廻りと変わらぬ住まいであった。

 



たいそうな塀があるわけでもなく、門があるわけでもない。

 



ただ一つ違うことは、小さな別の棟が一つあることだ。

 



それは、恐らく祈祷や占術を行う特別な場所であろう。

 


真魚はその事に気づいていた。

 



「木葉、ちょっと待ってくれ…」



真魚が木葉を呼び止めた。

 



「辰、籠を…」



真魚は辰が降ろした籠の中から野菜を一つ選んだ。

 



南瓜であった。



南瓜を手にした真魚が手刀印を組む。

 


「これを陽炎に…」



真魚はそう言って木葉にそれを渡した。

 



木葉が怪訝な表情を見せた。

 



「案ずるな、俺は味方だ」

 


真魚が木葉に微笑んだ。

 



「味方…」



木葉は真魚の言葉の中に心を感じたのだろうか。



それを持って陽炎の住まいに入って行った。





「さて、残りの野菜は俺が頂こう」




真魚がそう言って三つの籠を集めた。

 



そして、腰の瓢箪の栓を抜いた。

 



小さな瓢箪の口に、次々と野菜が飲み込まれていった。

 



雫と父と母。

 



三人は口を開けたままそれを見ていた。

 



「佐伯様、これは…!」


 

辰が驚きのあまり真魚に尋ねた。

 



「気にするな、ただの幻術だ…」



真魚はそう言って笑っていた。



籠三つ分。


 


それで、何日もつか…

 


それは嵐の胃袋に聞いてみないと分からない。

 





「陽炎様…これを…」



木葉が持つ南瓜。

 



「これは、誰が…」



南瓜に込めた真魚の心を手に取った。

 


それを陽炎は感じ取っていた。

 



「隣村から来た方が、陽炎様に会いたいようです」

 


「塊様にはお話が通っています」




「先ほどの波動…」

 


「兄上が何か粗相をしでかしたか…」



陽炎は真魚の放った波動を感じ取っていた。



塊は陽炎の兄らしい。




「作物の入った籠を蹴り飛ばしたのです」




「それで…」




「ある方がその場を収めました」




「どうやって収めたのだ」




「なにやら金か石かを塊様に…」




「なるほど…」



陽炎はそう言って笑みを浮かべた。




「木葉、その者達をここへ連れてきてもらえぬか?」




「ここへですか?」



木葉が陽炎の言葉に驚いている。


 


「そうだここへ連れて来て欲しい」




「陽炎様、犬がいます」


 

「犬だと」



陽炎は考え込んだ。



木葉の心を感じ取っていた。


 


「犬は困るな…」


 

陽炎はそう言って木の葉の頭を撫でた。


 


愛しき我が子のようにその心で包み込んだ。



 

「分かりました」


 

木葉は陽炎の好意に応えた。

 



今までにこのような事はなかった。

 


母のような陽炎と、二人だけの空間。

 



そこに他人を入れる。

 



それは木葉には許せないことだった。

 



いつもなら小屋で人と会うはず。

 


木葉には陽炎の考えが理解出来なかった。

 




木葉が外に出たとき、皆の様子がおかしかった。

 


「どうかなされましたか?」



木葉は気になって尋ねた。

 



「あ、いや、佐伯様の幻術に驚いていた所です…」



辰は木葉の問いにそう答えた。

 


「幻術?ですか…」

 


見れば南瓜などの作物が入っていた籠が、空になっている。

 



「陽炎様が待っています」

 


木葉はさほど驚く様子もなく、皆を奥の住まいへ案内した。

 



「犬は外で待たせてください、陽炎様は犬がお嫌いなのです」



木葉がそう言って嵐を見た。

 



「嫌われちゃったわね…」



雫が小声で嵐に言った。

 



「犬ではない、俺は神だ…」



雫にからかわれ嵐は少し落ち込んだ。




「天からの贈り物だ…」


 

ほどよく焼けた南瓜を一つ。



それを嵐の足下に置いた。



いつ焼いたのかは真魚しか知らない。



 


「熱いぞ、出来たてだ…」



真魚が笑っている。

 


 

俺は熱いものが苦手だ。

 


嵐がそう言う顔を見せている。

 



「一度火を通すと甘みが増す、一番美味しい食べ方だ」

 


「美味しいものはゆっくり味わう方がいい…」



長い話になる。



真魚は嵐にそう告げていた。




挿絵(By みてみん)





続く…







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