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空の宇珠 海の渦 外伝 沈黙の微笑 その三






真魚達は、歩きながら話した。

 


時間を無駄にしないためだ。



行く方向は同じ…



その方がお互いに都合がよかった。

 




挿絵(By みてみん)





「感情が乏しいというのでしょうか…」



「雫は子供の頃からほとんど笑いません」



それがこの家族の悩みであるようだ。

 



「笑わないというか…笑えないというか…」



「何か取り憑いているのではないかと…」



「そういうことになったのです…」



「それで、この先の村である人に、観てもらおうとなったのです」


 

父は真魚にここにいる理由を語った。

 



「それが、どういうことでしょうか…」



「あの犬を見た瞬間、別人の様に笑ったのです」




父が子を思う心、それは誰もが持っている。

 



「雫の心に、何か安らぎを与えているのでしょうか?」



真魚の口元には笑みが浮かんでいる。

 


幸い真魚が一番前を歩いている。

 


その表情は父からは見えない。

 



その辺りの憑きものなどは嵐の餌だ。



嵐を見れば皆、畏れをなして逃げる。

 


雫に平然と接しているのは、何もないからだ。

 


だが、父はそんな事は知らない。

 



嵐がどれだけ恐ろしい神であるのか…

 


その神を飼い慣らすことが出来る者は少ない。




それすらも気づくことはない。

 



「なるほどな…」



真魚はそう言って振り向いた。

 



雫と嵐が歩いている。

 


雫は笑っていない。

 


だが、楽しそうではある。

 



「これは、嵐に聞く方が早いか…」

 


真魚は小声でつぶやいた。

 



「俺たちも付き合うことにする」



真魚が言った。

 


「えっ、どういうことでしょう?」



父が真魚に尋ねた。

 



「その祈祷師か霊能者か分からぬが、それからでも遅くはあるまい…」



真魚は父に言った。

 


「まぁ、そう言うことですか…」



父は渋々その話を受け入れた。

 







真魚達と少し離れて、雫は歩いていた。

 


それには理由があった。

 


嵐と話すためだ。

 


「話せるんでしょう?」



雫は嵐にいきなりそう言った。

 


前にも一度そう言うことがあった。




「やはり…ばれておったか…」



嵐はその事を思い出した。

 


「いつからだ…」



嵐はそれだけ言った。

 



「子供の頃から…気づいた時から…」



雫は聞こえないように小声で言った。

 


それでも嵐の耳には十分過ぎる大きさだ。

 



「なるほどな…相手の心がわかるのか…」



嵐は雫の心を察した。

 



「人は嘘をつく…」



雫がぽつりと言った。

 


「心とは違う思いを、人に仕向ける…」



「言葉という刃で…」



雫がそう思っている。

 


その言葉の中に隠された想い。

 


雫の過去に何かがあった。

 


他人への不信…



嵐はその心を憂いだ。



「それで笑えなくなったのか…」

 


嵐には真魚と父の話も聞こえている。

 



「つまらないの…」



「何もかも分かると言うことが…」



雫がぽつりと言った。




「お主が何を知っていると言うのだ…」



嵐が雫に言った。

 


「お主はほんの一部分ににしか触れておらぬ…」

 


「一部分…」

 


「何の一部分なの!」



明らかに雫の心が揺らいでいる。

 



「大いなる意思だ…」


 

嵐が雫を見て笑った。




「嵐、あなたは何?」



「ただの犬ではないわよね」




「俺は神だ!」

 


雫の足が止まった。

 


嵐のその言葉で、雫が立ち止まった。

 


「嘘でしょう…」



「神様なんて本当にいるの?」

 



「ここにいるではないか?」

 


「それに、お主は気づいているくせに、それを否定している」

 


「受け入れることを拒んでいる…」



嵐は雫の心をそう見ていた。

 


「さっき笑ったではないか?」



「たかが食い物におろおろしている…俺を見て…」



「それを笑ったのではないのか?」


 

嵐は雫を見た。

 


雫はうつむいて黙った。

 


それは心当たりがあると言うことだ。


 


「その辺りのことはあの男に聞け」



嵐が真魚に顔を向けた。

 


「ほんの一部…」

 


雫は嵐の言葉に揺れていた。

 


「佐伯様に…」



雫が真魚を見た。

 



何かが変わるような気がした。

 


揺れる心がときめいている。

 


雫は真魚の中に希望の光を見ていた。






挿絵(By みてみん)






続く…


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