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空の宇珠 海の渦 外伝 迷いの村 その二十






真魚が嵐の背中で、例の棒を取り出した。



一度、村全てが見える高さまで飛んだ。




「どこにいる…」



真魚と嵐はその波動を捜した。

 



「家の場所を聞くのを忘れたな…」



真魚はそう言って笑った。





挿絵(By みてみん)





「あそこか!」 



嵐が既に高度を下げていた。

 


ある家の前まで迫っていた。

 



「これで、手間が省けたな…」



真魚が言った。

 


「何の手間だ!」

 


嵐にはどうでも良かった。

 


どん!



どん!


 

黒い影が家の壁をたたいている。

 


悲鳴が聞こえた。



 

光が奔った。



嵐がそのものを食った。

 



「丁度、腹が空いていたのだ…」



そう言いながら嵐の口が動いている。

 


その味を確かめている。

 



ごくり




嵐がそれを飲み込んだ。





「ああっ…ああっ…」



奏と響の母らしき女が、戸口で腰を抜かして座り込んでいる。

 


恐ろしさの余り、口を閉じることすら出来ない。

 



「嵐、うまいか?」

 


真魚が嵐に聞いた。



真魚は既に地面に立っていた。

 



「お主が考えた通りの味だ…」



嵐がそう言って笑った。




「どうする?ここで全部頂いても構わぬぞ…」

 


その口が恐ろしい事を言っている。


 


「嵐、消えぬ程度に頼む…」 



真魚がそう言った。

 


消えぬ程度。

 



「半分くらいはいいのか?」



嵐がそう判断した。

 


「ほどほどにな…」



真魚のその答えを聞かぬうちに、嵐が飛んでいた。

 


力の差は圧倒的であった。

 



光の速さで飛び、食らっている。

 


そのものはなすすべもなく嵐に食われた。

 


後ずさりしながら逃げていく。

 



「やってられん…」



嵐がそう言って止まった。




「だから言っただろ…ほどほどにと…」

 


真魚が呆れている。

 



そのものは遠ざかるように去って行った。 




「いいのか?逃がしても」

 



「このままでは誰も救われぬ…」 



嵐の問いに真魚がそう答えた。

 



「確かにそうかも知れぬ…」



そのものを食べた嵐がその味を思い出していた。

 



「悲しい味であった…」



その中に刻まれた想い。

 



嵐はそれを感じていた。

 



「悲しみだけでああなるのか…」



嵐がつぶやいた。




「あなた様は…」



真魚の背中から小さな声が聞こえた。

 



「俺は、佐伯真魚という」



「こっちは嵐だ…」




真魚が嵐に手を向ける。

 


さあどうぞ…

 


仕草で真魚がそう言ってる。

 



「えへん!」



咳払いをした。



「言っておくが俺は神だ!」



その仕草に嵐が照れた。

 


照れた分、台詞が決まらなかった。

 



「か、神様…」




「奏と響の母だな…」



驚く女に真魚が確認した。

 



「私どもをご存じですか?」



女の言葉が答えであった。

 



「見たであろう?あれが生け贄を食らうものだ…」



真魚が単刀直入に切り込んでいった。

 



「あれが神に見えるか?」




真魚が母に向かって言った。

 


「いいえ…」



母はいいながら首を横に振った。



自分が犯した間違いに、後悔していた。

 



「娘が食われる所だったのだ…」




真魚が言ったその言葉は母の心を揺さぶった。

 



「あなた様が…助けてくださったのですか…」



母の瞳から涙が溢れた。



稜から奏が消えたことは聞いていた。

 



「助けたのではない、手を貸しただけだ…」



真魚はそう答えた。

 



「響は生きているのですね…」




「生きている」

 


真魚はそれだけ言った。




母が手で顔を覆って泣いていた。

 


母が子を思う気持ちは誰でも同じだ。

 



命を産み、その尊さを実感できるのも母だけだ。

 



自らの魂のかけらに神が宿る。

 



母になる時、皆それを受けとる。




女はそれを受け取った時、偉大な母に生まれ変わる。

 




「ありがとうございます」

 


女はその言葉で泣き崩れた。

 


その涙に母の心が刻まれていた。




挿絵(By みてみん)





続く…






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