空の宇珠 海の渦 外伝 迷いの村 その十八
「ちょっと試して見るか…」
「試すって何をだ!」
「嵐、このまま少し、あいつから距離を取ってくれ…」
真魚が嵐に指示を出した。
「そういうことか…」
嵐は真魚の意図を理解し、そのものから距離をとった。
嵐は少しずつ離れて行くように移動した。
「思ったとおりだ…」
真魚がそう言って笑みを浮かべた。
そのものが引き寄せられる様についてくる。
嵐は空中をゆっくり移動する。
そのものは地面を滑るように移動している。
「完全な闇なら地面を這う必要はない…」
真魚が事実を捉えた。
「では、奴はまだ…人なのか…」
嵐がそう言った。
「やっぱり…人なんだ…」
稜が感じたもの。
事実ならそれが答えになる。
「あの…優しかった…人が…」
そして、稜にとって残酷な結果となる。
稜はまだその事実を完全には受け入れられない。
心の整理がつかない。
「やさしさ故に、人は傷つくのかも知れぬ…」
真魚はそう言って稜の肩に手を置いた。
あの時、何があったのか稜には思い出せない。
幼き頃の記憶。
その中に鍵があるはずだ。
「一度、後鬼の所に行く…」
真魚が嵐に言った。
「あのまま放っておいていいのか?」
「恐らく、後をついてくる…」
「それが奴の狙いだ…」
「そういうものか…」
嵐は真魚の指示に従った。
一瞬で後鬼のいる森まで飛んだ。
「えっ!」
稜は何が起こったか理解出来ない。
瞬きをしたか、しないかの間の出来事だ。
「山犬では無いぞ、俺は神だ!」
嵐は稜にそう言った。
「稜、奏はどこだ?」
嵐が稜に聞く。
「どうして俺に聞く、嵐は分からないのか?」
「お主が分かるなら、奴もわかる…」
「それって、奏が危ないって事?」
「お主は分かり易いな…」
稜の慌てぶりを感じて、嵐が笑っている。
「まだ、確かなことは言えぬ…」
「だが、あの時の波動を、奴は感じた筈だ…」
真魚が稜に説明する。
「できれば…その理由を知りたい所だな…」
真魚がそう言って笑った。
「あの辺り…」
稜が森の奥の方を指さした。
「なるほど…」
嵐が自分に言い聞かせる様に言った。
次の瞬間にはその場所に着いた。
ちぃりぃりぃぃん
鈴が鳴った。
奏と響は鈴を見た。
二人が同時に緊張している。
「大丈夫じゃ…」
後鬼が落ち着いている。
「その音は真魚殿じゃ」
「えっ!鈴の音で誰か分かるの?」
奏が驚いている。
「だいたいのことは…波動で分かる…」
「お主らも分かっておるじゃろ?」
「感じて見るがいい」
後鬼は二人に促した。
奏と響は同時に目を閉じた。
二つの輪が一つになる。
それが広がっていく。
その波動が何かに触れた。
「あっ、これなの?」
二人が同時に感じた。
「本当に…面白いな…」
後鬼は笑みを浮かべて二人を見ていた。
続く…