空の宇珠 海の渦 外伝 迷いの村 その十五
真魚達は奏と響の家に行く為に、話し合っていた。
響の居場所を作るためだ。
響の心は複雑であった。
自らの家に笑って帰ることが出来ない。
それは悲しいことだ。
「村人に見つかる訳にもいくまい…」
「それに家の場所も問題だな…」
真魚が奏と響に向かって言った。
「廻りに他の家がないかと言うこと?」
奏が真魚に聞いた。
「恐らく奏の母が、悲鳴を上げる…」
真魚が笑って言う。
「鬼は怖いからのう…」
嵐が前鬼と後鬼をからかう。
「何を言っておる!昔はこの美貌で男共を骨抜きにしたものよ…」
「のう、爺さん?」
後鬼が前鬼に視線を送る。
「そ、そうじゃったかのう…」
前鬼が返事に困っている。
骨抜きにされた一人のうちということだろうか…
「本当か?」
嵐が疑っている。
「稜、確認しておきたいことがある…」
「なんですか…」
突然の真魚の問いかけに、稜は緊張していた。
真魚の事はよく知らない。
だが、理由はそれ以外にもあった。
「あれっ、稜ってそんなに人見知りだった?」
その様子を奏に笑われた。
「私なんか、斧を担いでいる所を見られたのよ!真魚に!」
「恥ずかしい…」
「奏らしい…」
今度は奏の事を響が笑った。
「響が笑うのはおかしいでしょ!」
「あなたを助けるために必死だったのよ!」
笑う響を奏が窘めた。
「考えれば、まだ半日も経ってないのよね…」
奏が真魚達を見ている。
「そうだよね…」
響が笑みを浮かべる。
「時間って、本当はないのかも…」
奏がまた何かを見つけた。
「心には…ないかもね…」
響がそう感じていた。
「ね、稜?」
奏が稜を見て微笑んだ。
「そうかも…知れない…」
奏と響が心を許している。
その事実が稜を安心させていた。
その時であった。
「!」
突然! 獣の叫び声が聞こえた。
同時に伝わる怪しげな波動。
「真魚殿…これは…」
前鬼がそれに気づいた。
「獣ではないな…」
真魚が言った。
「何なの…これ…」
奏がそれを感じ取ったようだ。
「何だか…重い…苦しんでいるような…」
響にはそう感じたようだ。
「神社の方角か…」
後鬼はそのものを一度感じている。
「真魚殿、これはうちが感じたものと同じ…」
後鬼は真魚にその事実を告げた。
「稜!」
真魚が話を元に戻した。
「家族に消えた者がいるか?」
真魚の言った言葉は稜には衝撃であった。
「どうして…分かるの…」
稜は心底、真魚が恐ろしいと感じた。
全てを知っている。
稜が最初から畏れていたのはこれだ。
真魚が放つ波動。
稜はそれをそう読み取った。
稜が隠しておきたかった事実。
真魚は既にその事に気づいていた。
続く…