空の宇珠 海の渦 外伝 迷いの村 その十二
「ところで前鬼はどうしたのじゃ?」
嵐がその事を後鬼に確認した。
いつもは一緒にいるのに、今は後鬼一人だ。
「面白い小僧を見つけて、後を追いかけて行きおった」
「面白い小僧?」
嵐が奏を見た。
「多分、稜よ…」
奏には心当たりがある。
「誰かを捜しておった様じゃが、それはここにいる二人のことだな」
後鬼はその事を感じている。
「お主らはあの小僧の力を知っておるのか?」
後鬼は奏と響に聞いた。
「稜の力…?」
二人がそう言って顔を見合わせた。
お互いに心当たりはないらしい。
「ずっと隠しておったと言う訳か…」
後鬼がその事実に考え込んだ。
それは、幼なじみが生け贄になったのと無縁ではない。
後鬼はそう考えた。
「恐らく…あの祈祷師よりは力は上だ…」
後鬼が感じた事実。
そのままを皆に告げた。
「面白い…」
真魚が言った。
「稜がそんな力を持っていたなんて…」
奏が過去の出来事を思い出している。
だが、何も心当たりがない。
「稜にあっても不思議じゃないわ」
稜の血筋。
響はその事実からそう考えている。
「今回は後手に回ったようじゃがな…」
後鬼は稜の想いを察していた。
真魚が先に手を回してしまったのだ。
「それよりも…真魚殿…」
「あの祈祷師…あなどれませぬぞ…」
後鬼は小さな声で真魚に言った。
「思った通りだな…」
「社になんぞ、飼っておるようですな…」
後鬼が真魚に告げた。
「ほう…」
真魚に笑みが浮かぶ。
「あの祈祷師、稜の祖母らしいぞ…」
真魚が後鬼に告げた情報が、後鬼の考えを繋いでいく。
「あの小僧の…」
「なるほど…これは面白い…」
「血は争えぬか…」
後鬼が祖母である祈祷師を思い浮かべた。
「お主ら何を二人でこそこそ話しておるのじゃ!」
嵐が話に割って入る。
「お主には関係ない、こっちの話だ!」
「こっちとは何だ、こっちとは!」
嵐がそう言って怒っている。
「頭を使う方の事じゃ、お主は身体を使う方じゃろ?」
「それは、そうだが作戦は聞いておかぬとな…」
嵐はそう言って横目で後鬼を見た。
してやったり。
仲間はずれになった事を根に持っているらしい。
言葉に詰まる後鬼を見て、満足している。
「どうせ、好きなようにしか動けぬくせに…」
後鬼がそう言って嵐を横目で見た。
くすっ
くすっ
奏と響が笑っている。
「ほんとだ」
「だから言ったでしょ、怖く無いって…」
奏と響が嵐と後鬼のやりとりを見て笑っていた。
「見世物ではないぞ!」
嵐が二人に言った。
「鬼と神様の喧嘩が見られるなんて…」
奏がそう言って笑った。
「言っておくが、喧嘩ではないぞ」
嵐が二人を窘めようとした。
その時…
「来たようだぞ…」
「しかも、おまけつきだ…」
真魚が振り向いた。
「おまけって…?」
奏の顔色が変わる。
「きっと、稜のことよ!」
響がそれに気づく。
「健気な奴だ…」
嵐が笑っている。
「ようやく揃いましたな…」
後鬼が待っている。
全ての情報が揃うのを待っているのだ。
「そういうことだな…」
その方向を見ながら、真魚が笑っていた。
続く…