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空の宇珠 海の渦 外伝 迷いの村 その十






後鬼は前鬼の後を追った。


 

後鬼の中ではおおよその見当はついている。

 


後はその答え合わせをしなければならない。

 



「奏、響、あの小僧…」

 


「そして、あの祈祷師…」




全てを繋ぐ何かがある。

 


後鬼は考えながら前鬼の波動を捜した。

 



「おや!あれは…」

 


その前に違う波動を見つけた。

 


空に輝く一筋の光。


 

紛れもなくそれは嵐と真魚だ。

 


その光が村外れに降りていった。

 



「こっちの方が早いか…」

 



後鬼はそうつぶやくと、その光に向かって跳んだ。






挿絵(By みてみん)





前鬼は稜を追っていた。

 


それで幾つか気づいたことがあった。

 


稜は何かを当てにして動いているという事実。

 


他の者から見れば、闇雲に動いている様に、



見えるかも知れない。

 



だが、そうではない。

 



それが前鬼には分かる。

 



それは、なぜか…

 



それは、前鬼も同じものを感じているからだ。

 



波動。

 



そう呼んでいる。

 



ある次元に伝わる波。

 



その波の強弱を感じている。

 



ゆったりとうねる波よりも、細かく震える波の方が高き存在である。

 



稜は波動を辿りながら、うろうろしていた。




そして、突然方向を変え、稲刈りが済んだ田に入って行った。

 



「これは!」



稜が何かを拾った。

 



ただの縄だ。

 



田に縄が落ちていることは不思議ではないだろう。

 


稲刈りの際に使われたのかも知れない。 




だが、月明かりが有るとは言え夜だ。



縄その物を見つけることさえ難しい。



稜はそれを難なく行った。




「あの小僧、なかなかのものだ…」



前鬼は稜の行動に興味を持って見ていた。




稜はその縄を見て笑みを浮かべた。

 



「やっぱり、奏が助けたんだ!」

 



稜が感じた真実。

 



響は生きている。

 



その縄を見ただけでその事実を見抜いていた。

 



前鬼は草陰から距離をとって見ていた。

 



「仕方ない…」


 

前鬼が見たものは、前鬼の行動自体を否定していた。

 



稜が拾った縄は響が縛られていたものだ。

 



そこには響の情報が残されている。

 


響の悲しみ…

 


苦しみ…

 


希望…



その縄を持って稜が立ち止まっていた。

 



「泣いているのか…」



前鬼は稜の波動をそう感じ取った。

 



その行動から稜が奏や響の敵ではないことが分かる。

 


それどころか稜はどちらかに好意を持っている。

 



その涙から前鬼はそう感じ取った。

 



しばらく稜は何かを考えていた。

 


考えていたと言うよりは、縄から手がかりを感じ取ろうとしていた。

 



その時、夜空に一筋の光が流れた。

 



「お帰りか…」



前鬼はその光の存在を確認した。

 


ふと、稜に目を移すと稜がその光を見ていた。

 



「やれやれ…隠れても無意味か…」



前鬼は覚悟をした。

 



「何だあの光…奏、響…」



その光を見て稜がつぶやいた。

 



「小僧、行くぞ!」



前鬼が自らの行動に終止符を打った。

 


稜の目の前に前鬼が立った。

 



「ああ~」




稜が腰を抜かしている。

 



地面に座り込んで動けない。

 



「情けない奴だ、鬼を見たことがないのか?」



前鬼が笑っている。

 



「奏と響に会いたくないのか?」



前鬼は稜にそう声をかけた。

 


「!」



その言葉が稜に力を与えた。



「どうして、奏と響を知ってる?」



「あんたは…鬼だろ?」




声が震えている。

 



稜が精一杯の言葉を絞り出した。

 



「俺たちが助けたからだ…」




「えっ!」

 


鬼から出た言葉を、稜は見失いそうになった。



 

すれ違うのは、想いがかけ離れているからだ。




鬼が響を助けた。



この事実は稜の考えのどこにもなかった。




「俺は前鬼だ」



前鬼は自ら名乗った。

 


「どうして、何の為に…」

 



鬼が起こした行動を、稜は理解出来ないでいた。

 



「その縄に真実があるのではないのか…」



前鬼は少年にそう言った。

 



「…そうだ…」



稜は手に持った縄をじっと見つめた。

 



響の心の叫び…



奏への想い…



その真実に触れた時、稜は心を開いた。

 



「俺は稜だ」

 


稜の波動が前鬼に届いている。

 


稜が前鬼を受け入れた証を、前鬼も感じている。

 


前鬼が笑みを浮かべた。

 



「行くぞ!ついてこい!」



前鬼が稜を誘う。

 



「行くって、どこへ?」



稜はまだ手がかりを捜していた。

 



「あの光の中に何を見た?」



前鬼が稜にその事実を問う。

 


「あっ…」

 


稜は自分の過ちに気づいた。

 



「お主は自分が感じたものを否定するのか?」



前鬼の言葉が稜の心を揺らしている。

 



「俺が…間違っていた…」

 


あの光の中に奏と響がいた。

 



稜は一度それを否定した。

 


「ついてこい!」 



前鬼が跳んだ。

 



「ちょっと…」

 


稜は、その速さについて行くのがやっとであった。

 


田んぼのあぜ道を走った。

 


光が降りた場所。

 


そこに奏がいる。

 


響も生きている。




焦れったい…



 

稜は心で、その場所まで飛んでいきたかった。





挿絵(By みてみん)





続く…









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