空の宇珠 海の渦 外伝 迷いの村 その六
少年が神社の石段を下りながら奏の姿を捜している。
その行動はある見方をすればかなり不自然に感じる。
「あの小僧…ひょっとして…」
木の上で前鬼がその事に気づいた。
一仕事終え、偵察がてら二人は木の上で休んでいた。
「何かを捜しているようじゃな…」
後鬼もその事に気づいた。
少年は石段を下り神社の参道を抜けて行った。
「媼さんはここで怪しい奴らを見ていてくれ…」
そう言って前鬼が少年の後を追った。
少年はある方向に向かって走っていた。
恐らくその先に奏の家があるはずだ。
「あっ!」
少年が急に立ち止まった。
「やはり…」
少年が落ちている斧を見つけた。
「奏はここまでは来たんだ…」
だが、姿は見せなかった。
少年はその斧を持って奏の家の方へ走っていった。
「あの娘の事を気にしておるのか…」
前鬼は少年の後をつけた。
「月がこんなに…」
奏の想いは響の想いでもあった。
「面白い…」
真魚はそう言って笑みを浮かべた。
「真魚、あなたたちって一体…」
奏は感動している。
その感動が響にも伝わっている。
「この辺りか…」
嵐が止まった。
太陽と月と大地。
全てが輝いて見える。
「こんなに大きいの…」
響が声を上げた。
「そして、丸い…」
奏がそう言った。
「目を閉じてみろ…」
しばらく時間が過ぎ、真魚が言った。
二人は黙って目を閉じた。
「ああ…」
同時に声を上げた。
伝わるお互いの温もり。
二人の心が共鳴している。
「ああ…」
そして、更に光が二人を包み始めた。
「何…これ…」
二人同時に言った。
「感じて見ろ…」
真魚がそう言った。
二人が感動を共有している。
「ああ…何なの…」
響の背中から奏が響を抱きしめている。
響は奏の手を掴んだまま離さない。
「神の一部だ…」
真魚はそう表現した。
二人が共鳴しながら、その波動が広がっていく。
その感動の波動に廻りの生命が反応していく。
舞い降りる光の粒。
それぞれに意思があるように、二人に寄り添い話しかける。
それは言葉ではない。
だが、二人にはそれがわかる。
「これが…神様の一部…」
「そうだ…ほんの一部だ…」
真魚が二人に言った。
「これが…一部…」
その果てしない生命の力に二人は驚いた。
それでも、それが全てではない。
光の粒が舞い降り、二人に触れた。
二人とも同じようにその両手を広げた。
手の平に一粒の光が舞い降りた。
「ああっ!」
その瞬間…
大いなる慈悲が二人を包んだ。
身体の震えが止まらない。
心が震えているからだ。
感動の波動が二人を変えている。
その光に触れたものはその意味を知る。
光の粒を優しく握りしめた。
それは奏の意思ではない。
響の意思でもない。
光の意思だ。
光を握りしめたまま奏は響を抱きしめた。
その腕を響は離せなかった。
お互いを抱きしめ泣いていた。
これ以上の悲しみはなかった。
だが、悲しいから泣いているのではない。
その儚さと尊さに、感動しているのだ。
尊いのだ。
儚いのだ。
儚く、尊い。
その有り得ないものが存在する事に感動しているのだ。
手を開いたとき光の粒はそこには無かった。
握りしめた光の粒は二人の一部になった。
「ありがとう…」
奏と響は開いた手を見つめて泣いていた。
「これでわかっただろ…」
「俺は神だ!」
嵐がそう言った。
「ありがとう、嵐…」
「ありがとう、真魚…」
「出会ってから半刻も経ってはいまい…」
真魚がそう言って笑った。
「本当だ…」
奏はその事実に笑った。
「だが、時間は関係ない…」
真魚がそう言った。
「そうだ…」
嵐がそう言って高度を下げ始めた。
奏と響はうれしそうであった。
「良かった…」
奏は響に言った。
「あなた達に会えて…」
響はそう答えた。
続く…