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空の宇珠 海の渦 外伝 迷いの村 その五




光が響をさらっていった。

 


多くの村人の中でそれに気づいたのは、この少年だけであった。

 


ほとんどの村人は、屋根の上の影に惹きつけられた。 

 


しかし、少年だけは直ぐに響の姿を捜した。





挿絵(By みてみん)





この少年にとっての優先順位。

 


しなければならないことの一つが、響であった。


 

そして、少年は見た。

 


光が響をさらっていった。

 


「奏?」



少年はその光の中に奏を見たような気がした。 

 


光が通り過ぎた後に響の姿はない。

 


だが、少年にはそれよりも気になることがあった。

 



奏の事だ。

 



響を助けに来なかった。

 



有り得ない。

 


この少年にとって、それは有り得ない事だ。



だが、響は消えた。

 


少年はその不自然さに戸惑った。

 


助けに来るはずの奏が来ない。

 



消えた響。

 


光の中に感じた奏。

 



「まさか…」




そして、有り得ない考えが少年に浮かぶ。

 


奏は来なかったのではない。

 


奏は来た。


 

消えた響。

 


消えたのではない。

 


奏が助けたのだ。

 


「そうだ…きっと、そうだ…」

 



そう考えれば全ての想いが繋がる。

 


そこに綻びはない。

 


だが、その方法が分からない。

 



「どうやって助けたんだ…」

 



少年の思考はその方法を捜し始めていた。 




有り得ない現象。

 



奏が何らかの方法を使って奏を助けた。



それが、少年が出した答えであった。

 


この答えは間違っていない。

 


奏への想い。

 


揺るぎない心。 

 


答えを導き出せたのは、少年がこれを持っていたからだ。

 


この鍵がなければ、この扉は開かない。

 



―奏は必ず助けに来る―




この想いが少年にだけ真実を見せた。

 


その答えを見つけた時、少年は社の階段を下りようとしていた。

 



「見せかけの神になど用はない…」

 



少年は神を信じてはいなかった。

 


階段を下りながら奏の姿を探していた。




 







嵐の背中で奏は響を抱きしめていた。

 


縄で縛られた響を、落ちないように支えていた。

 


響は驚きのあまり口を開けたままだ。 

 


一瞬光に包まれた。

 


「響!」

 


気がつくと奏の泣き顔が見えた。

 


「奏!」

 


奏の想いが響の頬を濡らした。 



そして、響の瞳からもその想いがこぼれていた。

 


奏は響を助けるつもりでいた。

 


しかし、不安はあった。

 


それが成功する保証はどこにもなかった。

 


奏に伝わる響の温もり…

 


響に伝わる奏の想い…



目を閉じて二人は抱き合っていた。

 



「さすが双子だな…」



響の前から声がした。



 

そして、気がついた。

 


「飛んでる?」



響はその状況に驚いた。

 



「動いちゃだめ!」



奏が響を抱き寄せた。

 


「今、縄をほどくから…」



奏が縄をほどいている。

 



「俺は真魚だ、この山犬は嵐だ…」



響と目があった真魚が先にそう言った。

 



「奏、これって…」



「私もさっき出会ったばかり…」



「これで私たち自由よ!」




縄をほどき終えた奏がそう言った。

 


「でも、信じられない…」


 

生きている。

 


その事実が響の心を震わせている。



響の心からその感動が溢れ、広がっていく。

 



「ここまで飛ぶ必要があるのか?」



真魚がつぶやいた。

 



「ついでだ…」



そう言って嵐は高度を上げた。

 



「山犬がどうして喋るの?どうして飛べるの?」




「俺は山犬ではない、神だ!」


 

響の疑問は嵐の一言で消えた。

 



「神様?」

 


「神様…っていたの…」



響が驚いている。

 



「神はあまねくあるものだ…」



真魚がそう言った。

 



「あ、あまねく…って?」



奏が混乱している。




「どこにでもあると言うことだ…」

 


真魚がそう言った。

 


「手を伸ばせばそこにある…」



真魚がそう言って笑っている。

 



「でも、神様は助けてくれなかった…」




響は神の生け贄にされる所であった。

 



「お主ら…何か勘違いをしていないか?」



嵐が言った。

 



「勘違い???」



二人が声を揃えて言った。

 



「神が生け贄など欲しがると思うか?…」



嵐が言った事実は二人の心を締めつける。

 


何人かの友がその犠牲になっている。

 



「神は手を貸さない…」



真魚がそう言った。

 


「だから、生け贄など必要ないのだ…」




「そうか…」



真魚の言葉で奏が気づいた。

 



「そういうことなの…」



響がその想いを感じている。

 



「お主らが言ってる神は、偽物だということだ…」

 


嵐が答えを言った。

 



「神は手を貸さない…」

 


「だが、助けない訳ではない…」

 


真魚が笑っている。

 



「私、助けられている…」



響が気づいた。

 



「あれは、奏の想いだ…そして、祈りだ…」



真魚がそう言った。

 


響を助けようとする奏の想い。

 


真魚と嵐がそれを感じて行動を起こした。

 



「俺は、神だぞ!」



嵐が自慢げに言った。

 


その言葉は嘘ではない。

 



「神様って…いるんだ…」



その感動を二人は分かち合い、共有していく。

 



「だが…これほどとはな…」



真魚が二人を見て笑みを浮かべていた。





挿絵(By みてみん)




続く…









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