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空の宇珠 海の渦 外伝 命の絆 その二十二




柊が床の上に寝ている。

 


華と蓮が心配そうにその様子を見ていた。




百目鬼は手の平の目で柊を探った。



呪の糸を一本一本ほどく様に見ていく。





挿絵(By みてみん)





「真魚、あやつ信用していいのか?」



嵐はまだ半信半疑だ。


 

「まあ見ているがよい…」

 


真魚は平然としている。

 



「華を見て驚いたぞ、幼き頃の柊にそっくりだ」

 


「そのおかげで、はっきりと思い出したわ…」



百目鬼が柊に話しかけた。

 



「あの時、柊が来なければ、私は今も縛られたままかも知れぬ…」

 


百目鬼は話ながらも手の動きは止めない。




「楠の下でお坊さんに逢った…」



「ふふっ、そうか…」

 


柊が言ったその事実は百目鬼を呆れさせた。




それが百目鬼の今に繋がっているのだ。

 



「くそ爺…」



その横で真魚が笑っている。

 



「うちが思った通りであったな…」 



後鬼も笑ってた。

 


どういうわけか百目鬼の表情が穏やかになっていく。

 


真魚に出会って何かが変わった。

 



「柊のおかげで楽しみが増えた…」

 


楽しみとは勿論、真魚の棒の事だ。



 

百目鬼は母のような笑顔で柊を見た。



「何だか母を思い出します…」




「鬼に母を見るのか…」



百目鬼はそう言って笑った。

 



「楠の神はどこにおる?」



百目鬼がそう言った。

 



「何、楠の神って?」



華が不思議がっている。

 


「黑のことだ…」



側にいた蓮が華に言った。

 



「お兄ちゃん、その事知っていたの?」



いつも華のことを馬鹿にしていた蓮。

 


その蓮から出た言葉であることが華には信じられない。

 



「いや、向こうで真魚に聞いた…」



「父ちゃんの願いを叶えているって…」



蓮の言葉は意外であった。

 


「黑はやっぱり悪くないんだ」



華が見ていた通りであった。



「黑の中の神は、この先の泉にある楠の神じゃ…」



「父親は黑を村に連れてくる際、水を飲ませる為に立ち寄ったのじゃ…」

 


「そこで、願いをかけた…」

 


「その切実な想いは側にあった楠の神に届いた…」

 


「もうすぐその楠の寿命が来る…」

 


「その霊力の一部を黑に託したのだ…」

 


「その願いを叶える為に…」



後鬼の説明を百目鬼が頭に入れた。

 



「なるほど…」



「では、華、黑が来てからのことを順番に言ってくれ」



百目鬼が華に言った。

 



華は時系列に沿って全ての出来事を語り始めた。

 


蓮は驚いていた。

 



百目鬼が重ねられた呪を、順番通りほどいていく。

 



真魚が目をとじて手を広げた。



気がつくと金色の光が舞い降りていた。

 

 


蓮はその光の中で感じていた。

 


生命は繋がって生きている。


 

父は記憶は無くした。

 


だが、生きている。

 


これから、あの二人の子供の父として生きて行くだろう。

 


華と蓮の父としての記憶。

 


それを失った時、新しい人生に出会った。

 


だが、父がいなければ自分も華もいない。


 

父の願いがなければ母も生きていない。

 


その父の命は母が守った。

 


みんなまだ生きている。

 


命を繋いでいる。

 


命の絆は繋がっている。

 


そしてまた新しい生命に繋がっていく。

 


蝦夷で見た親を亡くした子供達。

 


だが、村が子供達を育てていた。

 


親子という関係はない。

 


それでもその絆は繋がっている。

 



「何、これ…」



華が舞い落ちる雪を受けるように手を広げた。

 


手の平の上に光の粒がゆっくりと舞い降りる。

 


その粒が手の平の上で輝いた。

 


光が広がっていく。

 


「華が広がる!」

 


華はそう感じた。

 


華の意識が光となり広がった。

 


粒から粒へ華が伝わっていく。

 


「ああ…すごい…」



華の瞳から涙が溢れていた。

 


大いなる慈悲が全てを包んでいる。

 


蓮も柊もそれを感じている。

 



「繋がっている…」



蓮が見た蝦夷の世界、父の記憶。

 


幼き柊が見た百目鬼との出会い。

 


柊の母の記憶。

 


華が全て並べ、共有していく。



そして、その全てを支えているものがある。


 

百目鬼の手が動き続ける。

 


機織りの娘のように手が止まる事はない。

 



「こやつ、なかなかやりおる…」



「任せて正解だったな…」



嵐が百目鬼に感動していた。

 



世界は目に見えぬ糸で織られた反物。



縦糸と横糸が織りなす世界。


 

百目鬼はその世界のからくりをほどき、直していく。

 



「なかなかのものだ…」



前鬼が百目鬼の美しさに見とれていた。

 



「それでも…うちの若い頃にはかなうまい…」

 


後鬼が前鬼を睨み、百目鬼に讃辞を送る。

 



「みんな繋がっている…」



華はその事実に触れた。


 

華の感動は止まらない。


 

「生命が繋がることで、この世界があるんだ…」

 


華が見たものはこの世の理だ。



広げられた生命の織物。

 


光の粒一つ一つが理であり、生命の一部だ。

 


だが、それが人の目に見えることはない。



柊も、蓮も同じものに触れている。

 


それでも二人には違うものに見えている。

 


それもこの世の理なのだ。

 



「この辺りでどうだ…」

 


百目鬼の手が止まった。

 



その言葉で真魚が目を開けた。

 


「それでいい…」




真魚が百目鬼を見て微笑んだ。

 


「約束は忘れるなよ…」



百目鬼が真魚を見て笑みを浮かべた。

 



その美しさに皆が見とれた。

 



鬼が持つ惹きつける力。

 



それすらも百目鬼の美しさには及ばないのかも知れない。

 



光の粒は消えていた。

 



「感謝する!」



真魚は感動の波動にその言葉を載せた。

 



その波動は宇宙に広がっていく。

 



柊が華と蓮を抱きしめている。




かけがえのない尊さを抱きしめている。

 


「ありがとう、蓮、華…」

 


柊の感動が二人を包んでいる。

 


命の絆を抱きしめ、その絆に包まれていた。

 



「折り合いは付けたが完全ではない…」



「懸命に生きよ!」

 


百目鬼は柊にそう言った。

 



「はい!」

 


柊が頷き、百目鬼が微笑んだ。

 





挿絵(By みてみん)




続く…




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