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空の宇珠 海の渦 外伝 命の絆 その二十一





嵐の背中の上で蓮は考えていた。



蝦夷で見て感じたもの。

 



それが蓮の中で輝き始めていた。

 



戦で親を失った子供達。

 


それを支える村人。

 



皆が協力して村を、世界を築いている。

 



輝く大地に育つ作物。

 



皆で育てたものを皆で分け合う。

 



そうやって命を繋いでいる。

 



 


「嵐、俺…来て良かった」

 


「ありがとう…」



蓮はそう言って嵐に抱きついた。





挿絵(By みてみん)




「真魚は、初めからわかっていたんだ…」

 


「だから、俺を連れて来たんだね…」



蓮は真魚に言った。




「全て分かっていた訳ではないぞ…」




「ほらね…」




蓮はそう言って笑った。

 



「俺だけではない…」

 



「えっ!」

 



「腹が減ったなどと下手な嘘をつく奴もいる…」

 


真魚がそう言って嵐を指さした。

 



「嘘ではない、本当に腹が空いたのだ!」

 


嵐の言った言葉は嘘ではない。

 



だが、蓮に蝦夷の世界を見せたかったのも事実であろう。

 



体験することで人は変われる。

 



五感の力はそれだけ強い。

 



それも、神が創ったからくりの一つだ。

 



だが、それを受け入れる力は、人の一部だ。

 







嵐は速い、あっという間に蓮の家に着いた。

 



「ん!」



真魚と嵐はその波動に気がついた。

 



「誰かいるぞ…」



嵐がそう言った。 

 



「前鬼も後鬼もいる、心配ない」



前鬼と後鬼の存在、その波動は二人が受け入れたものだ。

 

 


嵐はそのまま蓮の家の前に降りた。




「ほう…面白い…」

 


百目鬼は家の中でその波動を感じ取った。

 



その美しい顔が色めいた。

 



「気をつけるのじゃ、神は嫉妬深いぞ…」



後鬼が百目鬼を窘めた。

 



その声は美しい神に届いている筈だ。

 



「これで役者は全て揃ったわけだ…」



前鬼が言った。

 



「あっ!父ちゃんがいない…」

 


戸口で華が泣きそうになっている。

 



華は父が蓮と一緒に帰って来ると信じていた。

 


「華、父ちゃんはいなかったよ…」

 



蓮が華に言った。

 



「見つからなかったの…?」




「ああ、いなかった…」




蓮は嘘をついていない。

 


蓮はそう思っている。

 


華は目に一杯の涙を浮かべている。

 



「母ちゃ~ん!」

 


華は母の元に走り、その胸に抱かれて泣いた。

 



「坊主、何だかたくましくなったな」

 


前鬼が蓮の変化を感じとっている。

 



もう坊主と言われて突っかかる事もない。

 



「蓮…」

 


柊が蓮と目が合った。

 



蓮は何も言わずに頷いた。

 



その瞬間…

 



柊の瞳から涙がこぼれて落ちた。

 



たくましくなった蓮の姿、その心に秘めた想いを柊は受け取った。

 



「たった二日で…」



蓮の変化を母として誇りに感じた。

 



蓮の悲しみはいつか、強さへと変わって行く。

 



「真魚殿、こちらが百目鬼じゃ」



後鬼が真魚に紹介した。

 



「お主が、佐伯真魚殿じゃな…」

 


「何処かで…お会いしましたかな…」

 


百目鬼は真魚に何かを感じた。

 



「俺は会ってない…」



真魚はそう言う言い方をした。

 



「あの調子だと華はしばらく無理だな…」



泣きじゃくる華を見て、嵐がさじを投げた。

 



「柊が身体に宿した虫の飼い主だな…」



真魚はその事を知らないはずだ。

 



「なるほど…人にしては大きすぎる…」

 


百目鬼はその言葉で真魚を理解した。



 

「お主が言っていたのは、この男の事か…」



百目鬼が後鬼にその事実を確認しようとした。

 



「そう思うのか?」



後鬼は逆に百目鬼に問うた。

 



「いや、だが気配がする」



百目鬼がそう答えた。

 



「どういう気配だ…?」

 


後鬼の問いは更に続く。

 



「あの物の気配だ…」



百目鬼が明らかに好色な顔つきに変わる。

 



「真魚、こやつ美人じゃが、ここがおかしいのか?」

 


嵐が頭を前足で掻いている。




「俺にも分からぬ…」

 



真魚と嵐は百目鬼の本質を知らない。




「百目鬼は物に纏わり付くものを食らう」



「それが、生き甲斐じゃ…」



後鬼がその本質を簡単に説明した。

 



「あのくそ爺が持っておったのは…」



百目鬼が話を続けようとした。




「くそ爺…」

 

百目鬼が言ったその一言。



真魚がその言葉に興味を持った。

 


「これのことか!」



真魚は一瞬でその物を出した。

 



「俺がそのくそ爺から譲り受けた物だ」




「おおおぉおおおぉ!」




百目鬼が叫び声を上げて溶けた。

 


床の上に座り込んで立てない。

 



溢れ出る波動に身を委ねている。

 



「やはり、こやつ、やられておる…」



嵐が百目鬼の異常な反応を見てつぶやいた。




「これだ、しかも…しかも…」




真魚が地面に立てた棒。

 


百目鬼が擦り寄って今にも頬ずりをしそうだ。

 



「前よりも…興奮するぞ!」



真魚が譲り受け、四神のうちの青龍、朱雀、玄武が宿っている。

 



織り込まれた糸は途方も無い。

 



「これを私にくれ!」



百目鬼が真魚に懇願した。

 



「今は無理だ、まだやることがある…」



真魚は百目鬼にそう言った。

 



「それにまだ完全ではない…」



最後の力。




それが宿るのはまだ先の話だ。

 



「お主の方が俺よりも長く生きる」



鬼の寿命は人より遙かに長い。



真魚はそう言って笑った。

 



「おい、真魚!そんなこと言っていいのか!」



嵐が心配している。

 



「その時が来ればくれてやる!」



真魚は百目鬼にそう言った。

 



「あのくそ爺が…引きあわせたのかも知れぬ…」




「そうか…」



後鬼は真魚の言葉で絡み合った糸が、ほどけていくような気がした。

 



「本当だな、約束だ!」



百目鬼がそう言って立ち上がった。

 



「ああ、その頃にはもっとすごいことになっているぞ…」



真魚がそう言って笑った。

 



「そうか…そうか…」



百目鬼の目はうつろであった。



心はすでに時を超えていた。

 




挿絵(By みてみん)






続く…








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