空の宇珠 海の渦 外伝 命の絆 その十八
「お主に聞きたい事がある…」
後鬼は百目鬼に何かを感じている。
「何だ…」
「柊が出会った時、どうして縛られておったのじゃ?」
「うちにはお主がそれほど悪い奴には思えんのじゃ…」
後鬼の感じていた違和感。
百目鬼の波動がそう言っている。
「私は物に纏わり付くものを食らう…」
百目鬼はそう言って笑った。
「なるほど…それで分かったわ!」
後鬼はその一言で全てを理解した。
百目鬼はその美貌で人の心を惹き、金品を奪っていたらしい。
だが、手に入れたかったものは金品ではない。
金品に纏わり付いているものだ。
強欲な金持ちが持つものほど、大きく果てしない。
百目鬼にとってはご馳走というわけだ。
「その欲望をほどきながら食らうのが、私の楽しみだ」
百目鬼は唇を舌で舐めた。
「だが、あのくそ坊主が、私を縛ったのじゃ…」
「思い出すだけでも腹が立つわ!」
百目鬼は一人で怒っている。
「だが、殺さなかった…」
「それが腑に落ちぬ…」
百目鬼の怒りは何十年も続いているようだ。
「殺さなかったのは、感じておったからじゃぞ」
後鬼が百目鬼にそう言った。
「感じておっただと!」
百目鬼は怒りで事実を見失っていた様だ。
「うちが感じたものと同じじゃ」
「お主を悪鬼だと感じる坊主は偽物だと言うことじゃ」
後鬼の言ったことは嘘ではない。
「人とっては金を奪うものは悪い奴だ」
「そこに纏わり付くものなどは見えぬ」
後鬼は百目鬼に説明する。
「そして、纏わり付くものに引き込まれ、身を落として行くのじゃ」
「結果的にお主は人を救っておるのだが…」
「その事に全く気づいておらんのが人じゃ…」
「そんなものか…」
百目鬼は後鬼の説明を聞いてもよく分からないようだ。
「だが、お主が出会った坊主、恐らくただ者ではない…」
「ただの坊主ではないのか!」
百目鬼の坊主に対する憎しみは消えていない。
「お主は言ったではないか、見られているような気がすると…」
「今に始まった事ではあるまい…」
後鬼がそう言って笑った。
「何だと!」
百目鬼は驚きを隠せない。
「見ておったのか…まさか…」
「柊を仕向けたのもあの坊主か!」
「未来を見ていたというのか!」
百目鬼は驚いている。
「柊だけではないぞ…」
「これはうちの勝手な想像じゃがな…」
後鬼は暮れゆく空に目を向けた。
「それで、相談じゃ…」
「相談?」
「お主の百の目、その力を借りたい…」
後鬼は自らの手を開いて見せた。。
「知っておったのか私の事を…」
「面白い…乗りかけた船だ…」
「付き合ってみるか…」
百目鬼はその手を開いた。
手の平に目が一つ輝いていた。
続く…