空の宇珠 海の渦 外伝 命の絆 その十六
鐘の音と共に沢山の労働者が鉱内から出てきた。
朝と同じように役人が木の札を回収している。
その札を記録に残している。
労働者の中には、男に混じって女の姿も見えた。
「ここでやるか?」
気の短い嵐が真魚に聞いた。
「さっき相談したのに…」
蓮が笑っている。
策は練ったはずだが、嵐は待てない。
「忘れた訳ではないぞ!」
嵐が言い訳をしている。
「後をつけるのだったな…」
嵐が不満げにそれを確認した。
「これから寝床に戻るはずだ…」
おおよその見当はついている。
日が沈むまでに行ける所は多くない。
真魚はその場所で仕掛けるつもりだ。
沢山の人の流れ。
蓮は既に父の姿を見失っている。
一生懸命に捜している。
「心配するな、見失うことはない」
嵐が蓮にそう言った。
「でも、これだけの人だよ…」
「俺が仕込んで置いた」
嵐が朝に飛んだ理由。
それが、その仕込みであったのだ。
「仕込む?何を?」
蓮には理解出来ない。
「俺の毛を一本持って置けば、どこにいても俺れはわかる」
「それに、今回は真魚の札も仕込んである」
蓮は自慢げに蓮に言った。
「どこにいても分かるの?」
「ああ、どこにいてもわかる…」
嵐の言葉が蓮にはうれしかった。
もう見失う事はない。
もう父と離れる事はないのだ。
だが、それでも父の姿を捜している自分がいる。
目で確かめたい。
そう思うのは当たり前の事だ。
「蓮、目を閉じてみろ…」
真魚がそう言った。
「どうして?」
「その方が早いからだ…」
真魚は蓮の頭を撫でた。
蓮は目を閉じた。
真魚が呪を唱えた。
「光を捜せ…」
真魚がそう言った瞬間…
「いた!」
蓮がその光を見つけた。
蓮が目を開けてその方向を見た。
父の後ろ姿を見つけた。
「えっ!」
蓮はその時、妙な不安を覚えた。
父の傍らを歩く婦人。
なにやら親しげに話をしている。
まるで夫婦の様に蓮には見えた。
「父ちゃん…」
その姿を見つけた蓮は動けない。
「真魚、これは想定外じゃな…」
嵐の耳には遠くの話も聞こえている。
「蓮、父の名は何という?」
「朔三…」
嵐の問いかけに蓮が答えた。
「真魚、あの女は平さんと言っておるぞ…」
嵐は真魚にその事実を伝えた。
「父ちゃんじゃない…?」
蓮の落胆は相当なものだ。
「抜け殻とは…」
「そう言うことか…」
真魚は唇を嚙んだ。
「どういう…こと?」
蓮は混乱していた。
「真魚、まさか…」
嵐が気づいた。
「そうだ、食われた…」
真魚が恐ろしい事実を言った。
「身体は残ったが、闇に持って行かれた…」
それは朔三にとって一番大切なものだ。
それを失う絶望と共に、大切なものを闇は食らったのだ。
真魚はそれに気づいた。
「どうなるの…」
蓮が動揺している。
「今は、わからん…」
「一度、看てみぬとな…」
真魚がそう言って父である朔三を見ていた。
続く…