空の宇珠 海の渦 外伝 命の絆 その十五
「ここらあたりの鬼を知らぬか」
後鬼は楠に問いかけた。
何百年と生きている。
張り巡らされた情報の網は、その存在を知っている筈だ。
「少し、聞かねばならぬことがあるのだ… 」
後鬼は楠との対話を楽しんでいるかのようだ。
「有り難い…」
後鬼は楠に感謝した。
「あの家族が、お主のような存在に守られておったとは…」
「また来ても良いか…」
後鬼は楠を抱きしめた。
「ありがとう…」
楠の波動が後鬼に触れた。
太陽が傾き始めていた。
夕刻が迫っている。
真魚達は朝と同じ場所で父を待った。
朝には見なかった数の人が外でも働いている。
掘り出した石を運ぶ者。
その石を砕く者。
それを側の川で選別する者。
砂金を採る者。
外だけで百人以上はいるだろう。
選別された石は別の所で金として精錬されるようである。
「黄金ってすごいんだね!」
蓮は働いている人の数だけで圧倒された。
これだけの人が生活できるのだ。
金にはそれだけの価値がある。
田畑で作物を作っても生活は貧しい。
そのほとんどはかすめ取られる。
「金は食えぬど…」
嵐がぽつりと言った。
「俺にはうまい米を作るお主が、輝いて見えるがの…」
嵐は蓮にそう言った。
嵐にとっては黄金など何の意味も無い。
「あの者達は働かされているのだ」
真魚はそう言った。
「本来は、蓮の様に田畑で自然と共に生きてきた者達だ…」
「だが、全てを倭に奪われ、ここで働かされているのだ」
「そういえば…」
真魚の言葉に蓮が気づいた。
「苦しんでいるように見える…」
蓮はそう感じた。
作物は育ち、やがて実を付ける。
想いを 作物が形にする。
その生命の波動が溢れている。
そして、その生命の糧を頂くのだ。
だが、ここは違う。
ただ、肉体労働のみだ。
生命の輝きもない。
望んで働いている人もほとんどいない。
「労働は喜びでなくてはならぬ…」
真魚が言った。
「そうか…」
蓮には小さいながらもその事が分かる。
目の前の光景に喜びはなかった。
苦しんで見えたのは、喜びが存在しなかったからだ。
実際に苦しんでいるかはわからない。
だが、喜びは見えない。
「楽しそうでないからそう見えたのか…」
蓮はその光景をそう表現した。
「お主、小さいくせになかなかやるのぉ…」
嵐が蓮をからかった。
「大きい小さいは関係ない」
真魚が言った。
「身体は見せかけに過ぎぬ…」
人間本来の姿。
それが真実なのだ。
「そろそろだ…」
真魚が言った。
しばらくすると鐘がなった。
その音が森に響いていた。
続く…