空の宇珠 海の渦 外伝 命の絆 その十四
夕刻まではまだ時間は十分にある。
真魚達は採掘場を離れ計画を練っていた。
小川の側で食事を取った。
想定外の出来事に蓮は動揺していた。
だが、真魚の予想はある程度当たっていたようだ。
「これで蓮の父が帰ってこなかった理由がわかった…」
「何か考えが浮かんだのか?」
嵐が真魚に聞く。
「戦はとうの昔に終わっている…」
「蓮の父は帰ってくるはずであった…」
「だが、まだこんな所にいる…」
真魚は順を追って説明していく。
「本来、この仕事をするのは城柵の者達だ…」
田村麻呂が立てた方策はそうなっているはずだ。
お上もそれを了承し採掘が始まったのだ。
「だが、それで納得がいく…」
真魚がそう言った。
「どういうことだ、真魚?」
嵐には何の事かさっぱり分からない。
「柊の病の原因だ…」
「母ちゃんの病気のこと…」
父のことと母の病気がどうして関係しているのか、 蓮には理解出来ないでいた。
「偶然が重なりあっている…」
「偶然?」
蓮はどんどんわからなくなっていく。
「このことがなければ確実に柊は死んでいた…」
真魚が深刻な事実を言った。
「母ちゃんが…死んでいた…でも…」
「そうだ、今も生きている」
真魚が蓮の肩に手を置いた。
「柊は命を犠牲にして父を守ろうとした…」
「母ちゃんが…」
蓮はその事実を知らなかった。
「身体の調子は良くなかった筈だ…」
「そういえば…」
蓮には覚えがあった。
母の食事の量が減っていったのだ。
だが、それほど身体には変化がなかった。
それで、そのことを気にしなくなった。
「命を食らって願いを叶える虫がいたとする…」
「その虫が命を食らう前に、病魔が命を食らっていたらどうする?」
真魚は蓮に聞いた。
「けんか…するかな…?」
蓮はそう考えた。
「そうだ、奪い合いが起こるはずだ…」
「そして、柊の場合は病魔が負けたのだ…」
「だから母ちゃんは生きているのか!」
蓮はその事実を喜んだ。
「だが、完全になくなった訳ではない」
真魚はあの時、感じ取っていた。
華と柊に一度繋がっている。
「一時的に力を弱めただけだ」
「では、柊は助かった訳ではないのか?」
嵐の疑問は蓮の知りたいことでもある。
「解かねばならぬ…」
真魚はそう言った。
「解く?何をだ…」
嵐はそのものを見ていない。
「柊の中で呪の糸が絡み合っている…」
「その呪の糸をほぐすのか…」
嵐は真魚の意図を理解した。
「母ちゃんはどうなるの?」
呪の糸が解けたとき柊はどうなるのか。
蓮が柊を心配している。
「それは解いてみないとわからぬが、直ぐに死ぬと言うことはあるまい…」
真魚はそう言った。
「今生きているのはそう言うことだ…」
「父ちゃんはどうなの…」
それを確認するために蓮はここまで来た。
「ここからが本題だ…」
真魚は蓮と嵐に説明を始めた。
後鬼はその波動に導かれるように森に入っていった。
深くはない。
だが、その森にたどり着く者は少ないであろう。
仕掛けが存在している。
しばらく進むと池が見えた。
「これは…」
澄んだ水。
その水は泉から湧きだしている。
その池の側に楠の大木があった。
清浄な空間。
「お主が…」
後鬼は楠に言った。
そして、触れた。
光が後鬼を包む。
「何故、手を貸した…」
後鬼はいきなり本題に入った。
「なるほど…」
「そういうことか…」
後鬼と楠は一瞬で情報を交換した。
言葉ではない。
「面白い…」
後鬼はそう言って笑みを浮かべた。
続く…