空の宇珠 海の渦 外伝 命の絆 その十一
森の木々の間から星が見えている。
真魚達は夜まで待った。
そして、行動を起こした。
「こんな山奥に何があるの?」
蓮は山菜を採るときに以外は山に入らない。
しかも、この山は深い。
嵐に乗せて貰わなければ、たどり着ける場所ではなかった。
嵐から降りて少し歩いた。
その嵐も子犬の姿に戻っている。
暗闇を真魚と嵐は苦も無く歩く。
それも、何度となく歩いた所のように自然だ。
蓮は真魚の着物を掴んだまま引きずられる様に歩いた。
「あそこだ…」
真魚が小さな声で言った。
灯りが見えた。
森の木が無くなり、岩肌がむき出しになっている。
「あそこが入り口だ…」
真魚が指さす岩に穴が開いていた。
洞窟のようだ。
見張りの者が二人いる。
だが、二人とも寝ていた。
「あんな所で何をしているの?」
蓮の知識の中にはない。
「黄金を採っている…」
真魚が言った。
「黄金…?」
蓮は金を見たことがない。
その価値がどれほどのものかも知らない。
「父ちゃんはここで黄金を採っているの?」
蓮はすぐその事に気がついた。
「恐らくな…」
真魚はそう考えていた。
蝦夷に来た際、真魚は鉱脈を捜していた。
その一つがこの場所であった。
「朝になれば続々と人が来る」
真魚が蓮に言った。
「その中に父ちゃんがいる…」
蓮に希望の光りがさした。
昼間降った雨が嘘のように星空が広がっている。
虫の音が聞こえる。
空だけを見ていると星が歌っているようだ。
前鬼と後鬼は木の上で相談をしていた。
柊と華に聞かれてはいけない話だ。
「鬼に会わねばならぬと思っておるのじゃが…」
後鬼が前鬼に話を切り出した。
「呪の鍵か…」
前鬼が後鬼に確認する。
「ひとつ気になることがある…」
「細かく言えば二つになるが…」
後鬼が楓の身体を見た際に感じた違和感。
その答えが見つからない。
「真魚殿は言っておった…命に別状はないと…」
「柊に何かを感じ取ったのかも知れん…」
前鬼が考えている。
「うちが感じ取った違和感…真魚殿は分かっていると…」
前鬼の言葉に後鬼が考え込んだ。
「それに、華の力じゃ…」
「覚える力のことか…」
「真魚殿は二人に触れたとき同時に感じたようじゃ…」
前鬼がそれぞれを結びつけていく。
「命を犠牲に願いを叶える丸薬じゃ…」
「それがどうかしたのか…」
「それがおかしいのじゃ…」
後鬼が感じた違和感。
「命を奪う薬が命を救っておった…」
「それは願いが叶わなかったということではないのか…」
前鬼はそう考えた。
「待て…」
前鬼が何かを思い出した。
「華の力が全ての鍵だとすると…」
前鬼の中で何かが繋がり始めた。
「あるかも知れん…」
前鬼はその考えに一人で納得した。
「何があるのじゃ!」
後鬼には見当もつかない。
「父は生きているのじゃ…」
前鬼は後鬼にそう言った。
「それではわからんじゃろ!」
後鬼はだんだん腹が立ってきた。
「媼さんは鬼を捜して話を聞くが良い」
「最初からそう言えば良かろうに…」
後鬼の機嫌はまだ収まらない。
「それは、媼さんにしか出来ぬ仕事じゃ…」
「機嫌を取らぬともそうするわ」
後鬼は前鬼の顔を見なかった。
「この山の何処にいる…」
柊が出会った鬼。
後鬼はその波動を辿り始めた。
続く…