空の宇珠 海の渦 外伝 命の絆 その十
牛小屋で前鬼が黑を見ている。
その横で華が前鬼を監視している。
「ほう…これはなかかな面白い…」
「赤鬼さんのせいで黑が怯えてる」
黑はじっと立ったまま動かない。
繋がれていなければ逃げていたのは確実であろう
華は黑の反応をそう感じていた。
「華は黑の声が聞こえるのだったな…」
「いつもじゃない、時々ね」
「ははぁ~ん、そう言うことか…」
華の言葉で前鬼が考えを固めていく。
「それは二人だけの時だけか?」
前鬼の考えを華に確認する。
「そういえば…そうかな」
華が記憶を辿る。
指で何かを数えている。
「華、覚えているのか?」
前鬼は華の指の動きを見ながら華に言った。
「あたりまえでしょ、全部覚えてる」
前鬼は驚いた。
「全部とは見たもの全てのことか?」
「だから全部よ!」
前鬼は真魚の言葉を思い出した。
「華にしか出来ない仕事…」
その言葉の意味を前鬼は理解した。
黑の声が聞こえることではない。
華の記憶力が特別な力だったのだ。
「だが、これを…」
華の能力がいつから始まったのかは定かではない。
だが、少なくとも黑が来てからのことは、全て分かると言うことだ。
「赤鬼さん何ぶつぶつ言ってるの?」
「いや、ちょっとな…」
「ちょっと何?」
「真魚殿の言葉を思い出しただけだ」
「どの言葉?」
「華に仕事があると言ったことだ…」
「あ、あのこと…」
華は納得したようだ。
前鬼は小さな華に圧倒された様な気がした。
「真魚殿も気づいておるじゃろう」
黑の中身はだいたい分かった。
柊の病は後鬼が見ている。
華を守らせた理由。
前鬼には見えた。
「後は真魚殿が華の父を見つけるかどうかか…」
前鬼が華を見て笑った。
「黑は悪くないでしょ?」
華が前鬼を見上げる。
「悪くない…」
前鬼は笑って華の頭を撫でた。
この頭の中に詰まっている。
全てを解く鍵が…
前鬼はそう感じていた。
柊は眠っている。
その横に座って後鬼が考えていた。
「鬼の薬と柊の病魔…」
確かに柊は薬を飲んだ。
願いをかけた。
「その願いは父の無事だとして…」
願いが叶っていれば柊の命は途絶えた筈だ。
だが、柊は生きている。
しかも、その呪もまだ生きている。
その呪が生きていると言うことは、父もまだ死んではいない。
後鬼にはその謎が解けないでいた。
「一度、鬼に会わねばならぬのか…」
後鬼はそう考えていた。
呪を解く鍵が必要である。
それと、もうひとつ…
後鬼には気になることがあった。
「全ては真魚殿か…」
後鬼はそう考えていた。
続く…