空の宇珠 海の渦 外伝 命の絆 その七
「青鬼さんは病気を診るの?」
華は後鬼を肌の色でそう呼んだ。
そうなると前鬼は赤鬼だ。
「薬を調合するためには、身体のことも知っておかねばな」
「お薬を作っているのね」
華は少し安心したようだ。
「ところで、鬼にもらった薬を預からせてもらえぬか…」
「もう、お主には必要ないだろう」
後鬼のその言葉は柊にとっての救いだ。
「ええ…」
柊は薬の袋を後鬼に渡した。
「うちらは人の生死には関わってはならぬ…」
「なぜだかわかるか…」
後鬼が柊に問いかけた。
「いえ…」
柊には想像がつかない。
現に自分はこうして助けられている。
「それは、全てが人の成すべき事であるからだ」
後鬼がそう言った。
「死ぬこともですか…?」
柊は恐る恐る後鬼に尋ねた。
「生も死も病気も…全てだ…」
後鬼はその意味を柊に問うている。
「では、私は…」
自分は助けられた、その意味を柊はようやく感じ始めた。
「真魚殿は何かを見たのであろうな…」
後鬼はそう言って華を見た。
「華…」
柊はそう感じた。
「今回の件は何処ぞの鬼も嚙んでおる」
「その時点で、何かが変わり始めたのかも知れぬ…」
前鬼がその話に加わった。
「儂らを残したのも意味がある」
全ては真魚の心象の中にある。
「ところでお嬢ちゃん」
前鬼が華をそう呼んだ。
「私は華よ!」
華はその呼び方を嫌った。
「では華よ、黑のことだが…」
「どうして黑のことを知っているの!」
黑は牛小屋で前鬼は見たことがないはずだ。
「儂らはこの耳を持っておる」
前鬼は人よりも大きな耳を指さした。
「こっそりと話を聞いておった」
「それでか」
華はその耳で納得した。
大きいと言うだけで納得している。
子供には性能に関係なく見た目も重要だ。
「黑はここに来てから大きくなったか」
「あっ!」
華と柊はその事実に気がついた。
「そういえば…」
「大きくなってない!」
華が叫んだ。
「やはりな…」
前鬼が顎を触って考え込んだ。
「真魚殿が儂らを残した理由はそこにありそうじゃな…」
前鬼はそう理解した。
「柊の身体は心配ないと言っておった」
後鬼は真魚の言葉を思い返した。
「他に何かあるということじゃな…」
そして、そう解釈した。
「ま、牛の一頭や二頭うちが食らってやるがな…」
後鬼が冗談半分でそう言った。
「だめよ!黑は悪くない!」
その半分の真実を華は真に受けた。
続く…