空の宇珠 海の渦 外伝 命の絆 その五
「それでだ…」
真魚は話を変えた。
「父が出て行く前に何かなかったか…」
全ての始まりはその辺りから始まっている。
「これと言って…」
柊に思い当たる事がない。
「黑だ…黑が来た…」
「父ちゃんが黑を連れてきた…」
蓮が気づき、華が状況を言った。
「なるほど…自分の代わりか…」
そこに父の思いが存在していた。
牛がいれば畑仕事も多少は楽になる。
「そんなこと、黑に聞けば良いではないか」
嵐が口を開いた。
「だいたい、あいつが何かしでかしたに決まっている」
嵐が最初に見た印象はそう言うことだ。
「黑は悪くない!」
華がその言葉に抵抗する。
「安心しろ…」
「だが、一つ確認しなければならぬ…」
柊と楓に繋がった時、あるものが見えた。
「父ちゃんのことか…」
蓮がつぶやいた。
「そうだ…」
真魚がそれだけ答えた。
父の生死を確認する。
それは、家族にとっては残酷な結果となるかも知れない。
「では、そうすれば良いではないか」
嵐は面倒な事が嫌いだ。
「蝦夷へ飛ぶか!」
嵐は気が短い。
「待て…」
嵐を真魚が止めた。
「ここで霊力を開放する気ではあるまいな…」
真魚が嵐を窘めた。
「いや…言ってみただけだ…」
嵐は廻りを確認した。
自分の霊力でこの家がどうなるかを理解した。
「蓮を借りても良いか?」
真魚が母の柊に聞いた。
出会って間もない男に我が子を預けるなど、常識では考えられない。
「蓮はどう?」
柊は蓮にその答えを委ねた。
その問いは柊が了解したという証だ。
「俺は行きたい!」
蓮の瞳が決意を語っている。
「決まりだ…」
真魚は笑みを浮かべた。
「華も行きたい!」
華がそう言う。
「柊は誰が見るのだ?」
真魚が華を見て笑った。
「それに華には大事な仕事が残っている…」
真魚が言い聞かせる様に、華の頭を撫でた。
「大事な仕事って…?」
「それは帰って来てからのお楽しみだ」
真魚は笑って華の瞳を覗いた。
「わかった、母ちゃんは私が見る」
華は真魚の心を受け取った。
華の決意がそこにはあった。
「いるのだろ、前鬼、後鬼」
真魚が二人の気配を感じている。
ひゃひゃひゃ~
笑い声が聞こえた。
「今日は儂の勝ちじゃ」
前鬼の声がする。
「最後の一歩で負けか…」
残念そうな後鬼の声がした。
がた、がた
「ちょいと、お邪魔するよ」
ただの板の戸を開けて二人が入ってきた。
背中に笈を担いだ山伏のような格好をしていた。
赤鬼の前鬼と青鬼の後鬼だ。
二人とも額から角が出ている。
「お、鬼!」
華と蓮が驚いている。
「本当にいたんだ…」
華が感動している。
怖がる様子はない。
「男の方が前鬼で、女が後鬼だ」
真魚は子供にもわかる様に言った。
「留守の間は二人が守る」
真魚が勝手に決めている。
「そういうことじゃぞ媼さん」
「うちの霊力を見込んでのことじゃ」
後鬼には様々な薬を調合する知識がある。
その究極が後鬼の理水だ。
「ま、容体が急変することはないだろう」
真魚はそれだけ言った。
続く…