空の宇珠 海の渦 外伝 命の絆 その四
「母ちゃん!」
蓮のその声で目が覚めた。
気分が良かった。
「私…どうしたのかしら…」
「この人が助けてくれたんだ」
蓮が横にいる真魚を紹介した。
「ありがとうございました」
そう言って起き上がろうとした。
身体が軽い。
思わず腹を押さえた。
「あれっ」
有るはずのモノがそこにはなかった。
「やはりそうか…」
真魚が呆れたように母親に言った。
「悪いが少し覗かせてもらった」
真魚がそう言って胸を指さした。
「母の柊と言います…」
頬を赤らめ柊がそう答えた。
解かれた帯、少し乱れた着物。
どうやらその言葉の意味を取り違えたらしい。
だが、心を覗かれたと考える者はまずいない。
そう思われても仕方が無い。
直ぐに華が飛び込んできた。
母の胸に抱かれて華が泣いている。
それを見た蓮も目に涙を浮かべていた。
「いや、そうでは…」
真魚のいい訳は華の鳴き声で消えた。
「俺は佐伯真魚だ、そこの子犬が嵐だ」
母の柊は楓の頭を撫でながら頷いた。
真魚の声が柊に届いているかはわからない。
「あら、かわいい子犬ね」
さっきまで華と遊んでいた嵐は、完全に放置されている。
「犬ではない、俺は神だ!」
嵐が喋った。
それは柊が嵐と関わりを持つと言うことでもある。
「犬が…」
柊は開いた口が塞がらない。
「だいたい、お主らは俺様を形として捉えるからそうなるのだ」
毎回同じ説明をする事に嵐が苛立っている。
「この溢れる霊力がわからぬのか…」
そう言って人の愚かさに呆れている。
形に囚われると大切なものを見失う。
嵐は遠回りにそう言うことを言っているのであろう。
「身体の異変に気づいていたのか…」
真魚が柊を見て言った。
「はい…」
柊には思い当たることがあるようだ。
「今更言うのも何だが、人はいつか死ぬ…」
真魚の言葉に皆が凍り付いた。
「母ちゃん死んじゃうの?」
華が顔を上げた。
「そう言う意味ではない」
真魚はやりにくそうだ。
「いつかは死ぬが、死に急ぐことはないと言っているのだ」
「はい…」
柊はその言葉を噛みしめているようだ。
「そなたは母親だ」
真魚はそう言って笑みを浮かべた。
「あなた様は…一体…」
柊は小さくなったお腹のモノに触れた。
まだ生きられる。
柊は華を抱きしめ、 その喜びに包まれていた。
続く…