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空の宇珠 海の渦 外伝 命の絆 その一





雲行きが怪しくなってきた。

 


風が黒い雲を運んでいる。

 



風が変わる。

 


鳥がその風に追われ、逃げていく。

 


その冷たさが、残りの時を告げている。

 




挿絵(By みてみん)





「来るな…」



男がつぶやいた。

 



その男は肩に黒い棒を担いでいた。

 


長さは人の肩ほど、太さは一握りほどである。

 


漆黒、吸い込まれそうなほど黒い。

 


闇そのものの色であった。

 


薄汚れた直垂の腰に、朱い瓢箪をぶら下げている。

 


旅をするにしては軽装であった。

 



「おい、真魚よ!」

 


男の足下から声がした。

 



銀色の子犬が足下を歩いていた。



その言葉はその子犬が喋っていた。




「気づいたのか…」

 


子犬の問いかけに男がそう答えた。

 



真魚というこの男。

 


佐伯真魚。

 


後の世に弘法大師、空海と呼ばれる男であった。

 


 



下野国(しもつけのくに)


 

そこは東山道の近江から蝦夷までの中程にあたる。

 


それ故に重要な拠点であったことは間違いない。

 


実際に蝦夷との戦いの折に、この地から沢山の人の移動があった。

 


だが、人々がそれを望んでいた訳ではない。 

 




田で囲まれた道を歩いていた。



子供が二人。

 


牛を操って田を耕している。

 


その側に母親と思われる女が立っていた。

 


十歳ぐらいの男の子と、少し小さな女の子であった。

 


主に牛を操っているのは男の子だ。

 


女の子は母親について遊んでいる様に見えた。

 



「あれはどういうことのなのだ?」



子犬が真魚という男に尋ねた。

 


「俺にもわからぬ…」



「だが、すぐに何かが起こることもあるまい…」

 


真魚はそう答えた。

 



ただの親子だ。

 


それを見て何が変だというのだろう。

 



ぽつり

 


ぽつり

 


降り始めた雨粒が着物を濡らす。

 


「!」



「起こったぞ!」



子犬がその異変に気がついた。

 


「これは…想定内だ…」



真魚は子犬に向かってそう言った。





 

「母ちゃん!母ちゃん!」



母親が倒れていた。


 

腹を押さえている。

 


兄であろうと思われる男の子が身体を揺すっている。

 



「どうした?」



真魚が声をかけた。

 



「母ちゃんが急に!」



男の子は混乱している。




「見せてみろ…」



真魚がそう言って倒れている母に手を当てた。

 


「!」

 

真魚の顔が一瞬だけ険しくなった。




「おじさん治せる?」



女の子が心配そうに見ている。

 



突然現れた見知らぬ男に怯える様子はない。

 


しかも、母が倒れたというのに笑顔を見せている。

 


その不自然さに真魚はこの子の才を見ていた。

 



「知っていたのか?」



母に手を添えたまま、真魚が女の子に聞いた。

 



(くろ)が言ってた…」


女の子が黒い牛を指さした。

 


「こら、(はな)、おかしな事を言うな!」

 


兄は妹の言葉を信じていない。

 



「ほう…」



真魚が黒い牛を見た。

 


黑という牛はじっと真魚を見ていた。

 



「そう言うことか…」



真魚が牛を見て笑みを浮かべた。

 



「俺は医者ではない…」



「だが、それ以外の事なら出来るかも知れぬ…」



真魚が華という女の子を見ていた。




挿絵(By みてみん)




続く…







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