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空の宇珠 海の渦 外伝 心の扉 その二十五







翌朝、東子が目覚めるとそこには誰もいなかった。

 


それが現実であった。

 


知らない間に眠りについていた。




「!」



枕元に紙に包まれた何かがあった。

 


その横に文が置かれていた。


 

東子はその文を読んだ。

 


東子の瞳から涙が一筋だけ流れた。

 


「紗那…」



東子は名前を叫んだ。

 


一度手にした感動。

 


東子は心の奥のそれを確かめる。

 


そこに手を伸ばせば紗那がいる。

 


「ありがとう…」



紗那からの文を抱きしめてそう言った。

 



外から射しこむ光が東子に語りかけている。

 



東子は立ち上がり縁に出た。

 



光が東子を包み込んでいく。



「こんなに…」



東子の瞳から涙が溢れていた。

 



「こんなにきれいだったんだ…」




東子は世界の全てを受け入れている。

 



紗那が教えてくれた。

 



それは、東子への最後の贈り物であった。





挿絵(By みてみん)





朝の光がまぶしく感じた。

 


湯守は仲成の屋敷の庭にいた。

 


真魚に言われた通り、庭にあるものを埋めていた。 

 



「これで良し…」



仲成にはその旨を告げている。

 



だが、これはただの物だ。

 


別に霊力があったりと言うことはない。

 



だがそれでいいのだ。

 



信じれば、それが何であってもいい。




神が導くのではない。



人は自らの心に導かれるのだ。

 

 


湯守はそう感じていた。

 



結局、後を付けて来た者は、森で迷子になった。

 



それを湯守が屋敷まで連れて帰って来た。 



その夜から付き人は体調を崩し寝込んでいる。



どうやら本当の神の怒りに触れたらしい。

 



その事実がさらに仲成を悩ませた。

 



仲成は真魚の言うことを聞くしかなかった。

 



ただの私度僧。




その男の言うことを聞くのが腹立たしいようだった。




「ほんとに…すごい人だ!」 



湯守は真魚のことを心の底からそう感じていた。

 




挿絵(By みてみん)





三笠山。



神の山の上にいた。



全てはここから始まった。



そして、また始まろうとしていた。




「お主はこれからどうするつもりだ…」



子犬の嵐が紗那に聞いた。

 



「わかっておると思うが、お主はもう死んでいるのだ…」



生きている紗那に向かって死んでいると言うのもおかしな話だ。

 



「あてはないが…」



紗那の言葉に含みがある。




「何かやりたいことがあるのか?」



真魚が何かを感じた。

 



「男にしか出来ないことってのはどうだ?」



紗那がそう答えた。

 



「お主、俺たちをからかっているのか?」



嵐が紗那に文句を言っている。

 



「そうでもないようじゃぞ…」



前鬼は言葉の波動をそう受け取った。

 



「だが、難しいぞ…」



「しきたりと言うものがあるからな…」



後鬼がそう言った。




「男の世界に風穴を開けてみるか…」



真魚がそうつぶやいた。

 



性別の壁。



この世界の誤解を真魚は憂いでいる。




「何かあてがあるのか?」



嵐には想像もつかない。


 


「鉄斎殿に頼んでみるか…」



真魚がそう言った。




「刀鍛冶ですか、だがこれも…」

 


「それはいい!」




前鬼がそこまで言いかけた所で、紗那が声を上げた。

 



「刀鍛冶とてしきたりは厳しいぞ…」



「今は男しか許されておらぬ…」




嵐の少ない知識でもそれぐらいは分かる。

 



「だが、面白いかもしれぬ…」



前鬼が考え込んだ。

 



「紗那なら、新しいものを生み出せるかも知れぬ…」



真魚が言った。

 



「鉄斎殿が打った夢幻刀は守りの刀であったな…」



人を傷つける為に打った刀ではなかった。



前鬼がその事を思い出した。

 



「刀は穢れない心で打つもの…」



後鬼の考えも傾き始めた。




「心の扉、開きし者が打つ刀…見てみたい気もするな…」



前鬼の心象が広がっている。

 

 



「嵐、行ってみるか!」



真魚が嵐に言った。

 


「仕方ない奴だ…」



嵐がそう言うと霊力を開放した。

 


「山奥の一軒家だ、誰にも見つかるまい」



本来の姿に戻った嵐がそう言って笑っている。

 


「だが、お主はまた名前を変えねばならぬな…」

 


嵐は更にそう言った。


 


「また…?」

 


「紗那は本当の名前ではないのか!」

 


前鬼がその事実に驚いている。

 



「騙したつもりはないぞ…皆が勝手に思い込んだだけだ…」

 


紗那がいい訳をしながら嵐に乗った。

 



「真魚殿は知っておったのか?」

 


後鬼が真魚に問いかける。

 



「まあな…」

 


真魚が嵐の背中で笑っている。

 



「あの時…ですな…」

 


後鬼が思い出していた。

 


紗那が生死の境をさまよった時だ。

 


気がつくと嵐の姿はなかった。

 



「また…儂らはおいてけぼりか…」



前鬼がため息をつきながら空を指さした。

 



「いまいましい~」



「爺さんうちらも行くぞ!」

 


空に輝く一筋の光。




「あの光を追いかけるのじゃ!」



後鬼はその光を見てそう言った。

 





挿絵(By みてみん)




直刀から曲刀へ。


 

その後の世界に、美しい曲線を持った刀が伝わっていく。

 

その女性的で繊細な曲線は見る者を虜にした。

 

機能と美しさを兼ね備えた理想的な形。

 


一振りの刀がその流れを変えた。

 


ためらうほど美しく、そして儚い。

 


穢れ無き美しい波動を放った刀だったという。

 


そして、その美しさの為に、一度も使用されることはなかった。



それ故に、いつしか人は…



『不殺刀-ころさずのやいば-』



そう呼ぶようになったという。

 


その刀を打った者の名は誰も知らない。



その刀も今はない。

 


だが、その心は今も受け継がれている。

  



―心の扉 完―












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