空の宇珠 海の渦 外伝 心の扉 その二十四
紗那は後ろから東子を抱きしめている。
「行くぞ!」
嵐は更に高みに登った。
「えっ」
早い。
この世の乗り物はどれも追いつけない。
それでも全力ではない。
「これぐらいでよいか…」
嵐がそう言って止まった。
大地と宇宙の境目。
その辺りであろうか。
嵐の霊力で守られていなければ、命はない。
「嵐からの贈り物だ…」
東子の耳元で紗那が言った。
「これが…大地…」
輝く大地。
直ぐそばに丸い月が見える。
「月がこんなに…」
東子は驚いている。
背中に伝わる紗那の温もり。
東子の心に溢れる想い。
「東子、目を閉じて俺を感じろ…」
紗那がそう言って抱きしめたまま紗那の手をにぎった。
「ああ…」
東子の目の前に光の世界が現れた。
「大地が輝いている…」
「光の渦が見える…」
東子の瞳から涙が流れていた。
心の奥で生命が輝いている。
「あっ…」
東子の中で何かが弾けた。
紗那への溢れる想いがその扉を開いた。
その扉から光が飛び込んでくる。
無数の光の粒が舞っている。
その扉を抜けた。
身体はもうなかった。
自分はただの光の集まりであった。
「これが…私…」
そして、自分を包み込む光。
それは紗那であった。
「紗那…」
自分は今、紗那の中にいる。
紗那に包まれている。
東子はその喜びで満ちていた。
こんな感動は今まで感じた事はない。
どれだけ肌を重ねても、この感動には遠く及ばない。
「東子…」
ゆっくりと混ざり合う光と光。
混じり合い、全てを共にしていく。
「紗那…」
「私の… …」
東子が小さくつぶやいた。
その瞬間…
二つの光が勢いよく回り出した。
止まらない。
その渦を止められない。
「ああ…」
抱き合ったまま混じりあう。
その喜びの波動が広がっていく。
光の粒が集まってくる。
光の粒が一つになった二人に融合していく。
溶けていく。
混じり合い、溶け込んでいく。
「ああ…これって…」
東子はその喜びの中で何かを感じた。
「これが…本当の姿…」
「そうだ…男でも…女でもない…」
紗那が東子に言った。
紗那は分かっていた。
その喜びの中に、東子は真実を見つけた。
「これがそうなら…」
その喜びの渦の中で、東子は自らの未来を見た。
「もう離れる事などない…」
「離れることなど出来ないのだ…」
紗那と東子の想いが一つになった。
二人は今、共に有る。
混じり合いながら二人は今一つであった。
続く…