空の宇珠 海の渦 外伝 心の扉 その二十一
三笠山の森で真魚は何かを探していた。
形で無いもの。
湯守は何となくそう感じていた。
神の山と言っても神が常にいるわけではない。
有るとすれば扉だ。
扉だけがそこに存在する。
湯守は幼き頃溺れ、命を落としそうになった。
光る水面。
遠ざかる意識。
だが、その光の中に、突如それは現れた。
光の扉。
その扉が開き、温かい光に包まれた。
切なく哀しい光であった。
湯守は光の先に何かを見た。
そして気がついた。
死んだと思った自分が生きていた。
光の先にあったもの。
それが何であったのかは分からない。
だが、湯守はその光を追い求めて来たような気がする。
『あれは神だ!』
最近になってそう思うようになった。
そして、あの事件が起きた。
「何かを捜していらっしゃるのですか?」
「ほう…そう思うのか?」
逆に真魚に聞かれた。
「はい、何かの入り口ではないかと…」
湯守はあの扉を心に描いていた。
「場だ…」
真魚はあっさりそう答えた。
「場?」
「霊気の流れの様なものか…」
真魚は湯守に説明する。
「俺には必要ないが、今のお主ではな…」
真魚は湯守を見て笑った。
「清浄な空間、磁場、生命」
「最低これだけは必要だ」
「だが、これだけ条件の揃った所は少ない」
真魚は湯守にそう説明した。
清らかな水。
そして、生きたいという想い。
偶然存在した磁場。
湯守は自らの体験と重ね合わせた。
「なにをなさるつもりですか?」
湯守はその答えにたどり着いた。
「祟りを鎮めてもらわぬと困るであろう?」
真魚はその問いに冗談で答えた。
「あの向こうか…」
小さな川が流れている。
足下に岩が転がり始めた。
明らかに地質が違う。
それを真魚は感覚で見つけている。
森が少しだけ開けた。
水の音。
滝だ。
「これは…」
ぽっかりとその場だけ雰囲気が違う。
「わかるだろう?」
真魚の言葉に湯守が目を閉じた。
わかる…
感じる…
あの時と同じだ…
「はい!」
明らかに湯守の波動が上がっている。
「俺はちょっと休む…」
嵐はそう言ってその場で寝転んだ。
そこは嵐にとっても心地良い場所であるはずだ。
「そこに座れ…」
真魚の指示に従い湯守はその場に座った。
「きっかけは俺が作る…」
「目を閉じて心の奥を見ていろ」
真魚はそう言って自らも座り目を閉じた。
印を組んで呪を唱えた。
真魚に光の輪が現れた。
その輪が回転すると同時に輝き出す。
生命の波動が広がっていく。
その波動が全てを包み込んでいく。
「ああ…」
湯守が声を上げた。
金色の光の粒が舞い降りてくる。
ゆっくりと漂うように舞い降りる。
「ああ…」
湯守が涙を流している。
湯守の身体の周りに光の粒が纏わり付いている。
湯守はあの時以来、その感動に触れた。
知りたかったもの…
その答えを今感じている。
感動していた。
だが、今の湯守にはその粒が何であるかは分からなかった。
深い慈悲の心に包まれている。
それだけを感じているだけであった。
続く…