表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
181/494

空の宇珠 海の渦 外伝 心の扉 その十五






今にも雨が降り出しそうであった。

 


その空は東子の心であった。

 


東子は釣殿で庭を眺めていた。

 


紗那はしばらく来ない。

 


愛しさと不安が募っていく。






挿絵(By みてみん)





一つ気がかりなこともあった。

 


兄の仲成の様子がおかしいのだ。

 


明らかに何かを隠している。

 


その事実が更に東子を追い込んでいく。




「!」



庭が一瞬華やいだ。

 


そう感じたような気がした。




その理由は分からない。

 



見た目には変わった様子はない。

 


 

だが、確かに違う。

 



そう思った瞬間から、世界は変わっていく。

 



「あれは…」



門から一人の男が入ってきた。 



 

肩に黒い棒の様なものを担いでいる。

 


その男の足下を、纏わり付くように子犬が歩いていた。

 



「兄の知り合い…」

 


仲成の付き人が案内している。




そうは思えない。

 



兄があのような方と関わりがあるはずがない。

 



東子はそう思った。 




その理由はその男の輝きであった。

 



兄とは違う。

 



着物は薄汚れているようだが、溢れるものは疑う余地がなかった。 

 



「誰なの…」




東子はその男が気になっていた。

 









庭の石畳の上を嵐が歩いている。

 


喋りたくて堪らない。


 


だが、ここは我慢だ。

 



その我慢が行動に出る。


 

真魚の足下をくるくると回っている。

 



「嵐、もう少しの我慢だ…」

 


真魚の口元に笑みが浮かんでいる。



真魚は笑いを懸命に堪えていた。

 




「仲成様がお待ちでございます」



寝殿の前の庭に案内された。




その寝殿の階段に仲成は腰をかけていた。

 


「仲成様、お連れいたしました」




付き人が真魚の両側に立っている。

 


そして、背中にもう一人。

 


あの夜の三人が揃っていた。



 

しかも、仲成を含め全ての者が帯刀している。

 


自らの屋敷の中で本来なら有り得ない。

 


それだけのことがあったのだ。

 


言葉による祟りは、確実に仲成を蝕んでいた。

 



「どういう用件だ…」



仲成はそう言って探りを入れる。

 



だが、焦っている。

 



真魚の名を聞くことさえ忘れている。

 



「この辺りに怪しい気配が漂っていたもので…」



「なにか、お困りのことでもと…」



真魚は全く無いことを、実際に有るように言った。

 



「ふむ…」



仲成は拳を顎に当て考えているふりをした。

 


だが、これで真魚のことを信用したわけではない。



 

「お主は陰陽師か何かか…?」



仲成にはその肩書きが必要な様である。

 



「陰陽師ではございませんが、そのようなもので…」




「ほう…」



仲成はなかなか信用しない。

 


感心したふりをしているだけだ。



 

人を殺めた事実が仲成を縛っている。

 


だが、実際は紗那は生きている。

 


仲成がそう思い込んでいるだけだ。

 



その事実をこの得体の知れぬ男に話さなければならない。

 


それは、仲成自身の首を絞めることになる。

 



「何か術を見せてもらえぬか…」



仲成はそれで覚悟を決めるようであった。

 


「では…」



真魚がそう言って庭に座り、印を組んだ。

 



真言を唱える。

 


真魚の波動が広がっていく。

 



「ああ…」



誰かが声を上げた。

 



あの夜、神を畏れなかった若い付き人であった。




挿絵(By みてみん)





続く…






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ