空の宇珠 海の渦 外伝 心の扉 その十一
星の渦の中で紗那は目を閉じていた。
その光の全ては生命だ。
その生命を感じていた。
紗那はその輝きの全てを受け入れた。
拒む光は一つとしてない。
「これは…」
涙が溢れていた。
理由は分からない。
心が震えている。
感動の渦が生命の波動を生み出している。
それは紗那の想いであった。
その想いが心の扉を開く。
その瞬間、光が溢れた。
まばゆき光。
やさしく温かい。
扉の奥から光が差し込んでくる。
圧倒的な慈悲の心。
全てを包み込む光。
「ああ…」
紗那は自らの身体を抱きしめ震えていた。
圧倒的な慈しみの前に身体が揺れている。
自らの意思ではない。
涙が溢れ止まらない。
「ほう…」
真魚はその光の中にある神を見ていた。
「珍しいこともあるものだ…」
嵐がそうつぶやいた。
神自らが降りてきたのだ。
滅多にあることではない。
「光が…」
紗那はその光に包まれている。
紗那の身体はもう無い。
「これが…私…」
男でも女でもない紗那がそこにいた。
紗那の意識が自らの魂に触れる。
紗那の意識は全てと解け合っている。
感動だけが存在していた。
それは神の心だ。
そこに生まれてきた意味があった。
「紗那…それくらいにしておけ…」
その声で気がついた。
甘美な感覚の中で、紗那はその声が誰であるのか思いだした。
「真魚…」
紗那は目を開いた。
真魚は目を閉じて神に感謝した。
紗那の着物が涙で濡れている。
「お、俺は…どれほどいたのだ…」
紗那は濡れた着物を見て驚いている。
「時間は関係ない…」
「人の感覚では一瞬かも知れない…」
「永遠かも知れない」
「だが測ることは無意味だ…」
真魚が紗那にそう言った。
「そうだな…そうだ…」
紗那には真魚の言葉が分かる。
時間ではない。
そのものに触れた事が尊いのだ。
「お主があの場所で殺されかけたのも、意味があったのかも知れぬな…」
嵐が笑みを浮かべている。
「そうか!そうだ!」
紗那が叫んだ。
「見つけたのか?」
真魚が笑っている。
「いや、まだだ…しかし…」
紗那が混乱している。
いくつもの生命が紗那に語りかけた。
その整理が間に合わない。
「しばらく考えておけ…」
嵐はそう言うと大地の廻りを飛んだ。
「こんなに広いのか…」
感動していた。
「こんなに美しいのか…」
紗那は、その星の生命の輝きを感じていた。
続く…