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空の宇珠 海の渦 外伝 心の扉 その五




前鬼が笑っている。



「そうか、そう言うことか…」




「何の事だ?」



嵐はまだ気づいていない。

 



「な、何を笑っている!」



そう言う紗那の頬が赤い。




挿絵(By みてみん)



「これほどの美男子を放っておく女もいない、ということだ…」



真魚が答えを言った。




「お、お主、女のくせにどこぞの女に手を出したのか!」

 


「俺は女ではない!」



嵐の言葉を紗那が打ち消そうとする。 

 



「それに俺たちは愛し合っている…」



紗那は恥ずかしそうに下を向いた。

 



後鬼はその言葉で見当がついた。



「なるほど…原因はそれか…」




問題は紗那にあるのではない。

 


紗那の相手の女の方に問題があるのだ。

 



「まさか…あの男のお気に入りではあるまいな…」



命を狙われたのだ。

 


それ相応の理由があるはずだ。

 


娘を取られては困る理由がある。

 


それは、その相手の家が高い身分であると言うことだ。

 


ましてや帝が娘を気に入ったとなると、一気に出世の道が拓かれる。

 



「藤原氏か…」




真魚はそれ以外の貴族は思い浮かばなかった。

 



それほど、この時代にかけての藤原家の力は強大であった。

 


だが、同じ藤原氏の中にも権力争いがある。

 



だからこそ政略結婚が重要な鍵となるのだ。


 


「これはまた…とんでもない話だ…」



前鬼が呆れている。

 



「種継殿の娘だ…」



紗那が言った。

 



「種継はもう死んでいる…」



「その種継の娘となると…」


 

真魚はその事実から、あることを導き出そうとしていた。

 



「そういえばあの男…良い物を着ておったな…」



嵐が紗那を殺そうとした男を思い出していた。

 



「だが、貴族が自らの手を汚すのか…」


後鬼が納得出来ないでいる。

 



自らにも危険が及ぶ可能性がある。

 



「紗那が足蹴にした男の妹を、紗那が奪ったとしたらどうだ…」


 

「しかも、その妹はあの男のお気に入りだとしたら…」

 



真魚の言葉に前鬼が続けた。




だが、それは常識では有り得ない事だ。



 

「紗那、お主知っておるな?」



後鬼がその事実を見抜いていた。




「仲成か…」



真魚が紗那に確認した。



「…」

 


紗那は何も言わずに頷いた。




「愛しき者の兄に命を狙われるなど、哀しい話だ…」

 


嵐がその恋路を哀れんでいる。



 

種継亡き今となっては仲成が式家の長である。

 


その仲成に反対されれば、どんな思いも実ることはない。

 



「だから言えなかったのだな…」



後鬼はその心を哀れに想う。

 



「だが、なぜ仲成がお主の素性に気づいたのだ?」



前鬼はそこが腑に落ちない。




「わざわざ、こんな人気の無い場所に来ているのだ」

 


「呼び出されたか…」



真魚はそう考えていた。



 

「姫を問い詰め…それで会うことになった」



「会うまでは奴も半信半疑だった…」



「だが、声で感づかれ、顔で確信した…」



「最後は胸を触られた…」

 


紗那がその状況を説明した。




「俺の女になれ、そうすれば許してやる…」



「あの男はそう言ったのだ…」



紗那が唇を噛んだ。 

 



好きな女の兄と褥を共にしろと言っているのだ。

 



どちらも耐えられる筈がない。

 



それをあの男は紗那に強要したのだ。



 

「言うことを聞かねば、殺すつもりであったか…」



「どこまでも愚かな男だ…」



後鬼がつぶやいた。

 



「それで、どうするつもりだ」



真魚が紗那に言った。





挿絵(By みてみん)





続く…








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