表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
165/494

空の宇珠 海の渦 第六話 その三十九






紫音は嵐を抱きしめていた。

 


「久しぶりね…嵐」



その波動が嵐に伝わっていく。

 



「変わり…」



そこまで言いかけて嵐は気がついた。

 


「紫音…」




挿絵(By みてみん)




「真魚も久しぶりね!」



紫音の波動が広がっていく。


 


「鈴鹿御前と凪だ」



真魚が紫音に紹介する。

 



「いらっしゃい!」



「みんなに紹介するわ…村に行きましょう」

 


紫音がそう言って鈴鹿御前と凪の手をにぎった。

 



「!」



鈴鹿御前が気づいた。

 


同時に凪も気づいた。

 



だが、凪にはそれが何であるのか分からなかった。

 


ただ、凪は紫音の輝きがまぶしかった。

 



『輝き…』



凪は紫音の中にそれを見た。

 



比べても何の意味も無い。

 


だが、今の自分とは明らかに違う。

 



紫音の輝きはそれほど凪にはまぶしかった。

 



「お主…お腹に…」




鈴鹿御前が紫音を見た。




「ばれちゃった!」

 


「真魚が連れてくる人は、変な人が多いわね」



紫音が微笑んでいる。

 



「良かったな…紫音…」



真魚が微笑んでいる。

 


「うん!」

 



紫音は瞳に涙を浮かべていた。

 



苦しいとき真魚がいてくれた。

 



真魚がいなければ今の自分はいない。




この場所もなかったかもしれない。


 



凪が感じたもの…



「二人分って…こと…」



あの不思議な感覚はそう言うことだったのか…

 


 

紫音の輝きは小さな命を宿した母の決意かも知れない。

 


凪はそう思っていた。

 



「私、先に行ってる…」



紫音は走ろうとした。

 


嵐が紫音の前に飛んだ。

 



「紫音、どういう身体か分かっているのか?」



嵐が窘めた。

 



「あ、つい…うれしくなって…」



紫音は舌を出して照れた。

 



「そう言うところは変わらんな…」



真魚が呆れている。

 



「気をつけないとね!」



ばつが悪そうに紫音が村の方へ歩いて行った。

 



「あいつ、作物を忘れておる…」



嵐が呆れている。

 



「私が持って行く…」



凪が籠を持ち上げた。

 


取れたての野菜。

 


そこには命が輝いている。

 



今の凪にはそれが見える。

 



細胞の一つ一つに残された波動。




「私たちは命を…」



凪はその意味を感じていた。


 



「もう少しここにいて良いか…」



鈴鹿御前が立ち止まった。

 



ふ~~~っ



一つ深呼吸をした。

 



「全てが…愛おしい…」



鈴鹿御前が空を見上げた。

 



「そういえば…違う…」



凪が目を閉じた。

 


蝦夷の大地を感じている。

 


命の波動を聞いている。



凪は思った。



 

はっきりは分からない。

 


だが、ここには全てある。

 


そう感じた。

 



「俺も最初に来たときは驚いた…」



真魚が言った。

 



「倭が欲しがるのも分からなくはない」



人は無意識にそれを感じている。

 


「だが、奴らは勘違いをしている」




「勘違い…」



凪にはわかる様な気がする。

 



倭と蝦夷の違い。

 



蝦夷の大地も倭に奪われればそれを失う。

 



「人が支配するのではない…」




そうだ!



凪は倭の人々の苦しみを知っている。

 


だから…



こんなに違う…



蝦夷の人々はそれを感じて生きている。




「人が大地に…」



空から見た命の輝き。

 


その中で人は生きている。

 


命を食べて。 

 


命を繋いでいる。

 



「生かされている…」



凪は大いなる慈悲を感じていた。

 



命が命を与えている。

 


凪の中に宿った命が教えてくれた。

 



倭はそれを忘れている。

 


そう思った瞬間。

 


凪の中で何かが繋がった。

 



身体の中に光が飛び込んでくる。

 


身体が熱い。

 


凪の心が満たされていく。

 



「これは…」



蝦夷の大地が凪に言っている。

 



言葉ではない。

 


大いなる意思。

 


凪には何であるか分からない。

 



だが、それが真実であることだけは間違えようがなかった。

 



凪が震えている。

 


その感動に耐えられない。 

 



「どうした、凪!」



鈴鹿御前が凪の異変に気がついた。




「蝦夷の大地と話をしている…」



真魚には全てが見えている。

 



「受け入れてもらったのか…」



嵐がそう表現した。

 



「そなたが感じているものを凪も感じている…」




「そう言うことか…」



鈴鹿御前が笑みを浮かべた。

 


ぷは~ 



凪が呼吸をした。

 


時間にすればそう長くはない。

 


人が息を止めていられるほどだ。

 


足下に取れたての野菜が転がっている。

 


「この世界はどうだ…」



真魚が意地悪な質問をする。

 



「戻れないかと思った…」



「でも、ここは美しい…命が輝いている…」




凪は転がった野菜を拾いながらそう言った。

 




「私、ここで暮らしたい!」

 


凪が蝦夷の大地にその心を伝えた。 




挿絵(By みてみん)




続く…






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ