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空の宇珠 海の渦 第六話 その三十二





闇と戦う嵐の前に、突然青い光が飛び込んできた。



「こら!真魚!」

 


真魚が放った青龍であった。

 



「後はこいつらに任せておくか…」



嵐は満腹に近かった。

 




挿絵(By みてみん)




気がつくと鈴鹿御前の館が燃えていた。

 


嵐は真魚の元に飛んだ。

 



「真魚、まだあの龍を飼い慣らしておらんのか!」



嵐は危うく食われる所であった。

 



「お主なら避けるであろう…」



絶大な信頼と取っていいのだろうか。

 



「俺は仕上げに行く」



嵐はそう言って火の粉が舞う館に飛んだ。

 


そこには…後鬼がしびれを切らして待っていた。




「遅いわ!もうとっくに前鬼の方は終わっておる!」





「本当にいいのか」

 


倭に見つからないように嵐が確認する。




「うちの一世一代の大舞台じゃ…」



後鬼はやる気満々であった。






後鬼は炎の舞台を背に前に出た。

 



だが、倭の兵は狼狽えたまま後鬼に気がつかない。

 



「何じゃ、軟弱者ばっかしじゃな…」



後鬼はその体たらくに呆れていた。

 



『面白い…手を貸してやる…』




美しい波動が響いた。

 




どおぉぉぉぉぉん!

 





その瞬間、後鬼の前に雷が落ちた。




その音と光が倭の兵を惹きつける。

 




「あそこにいるぞ!」



誰かが叫んだ。




館の前には鈴鹿御前となった後鬼がいた。

 



その鈴鹿御前が新たな術を使ったのだ。

 



倭の兵はそう思っている。




「撃て!」



攻撃の命令が出た。

 


何百もの矢が一斉に鈴鹿御前に向かった。

 




鈴鹿御前はその矢を全て包み込むように両手を広げた。 





何かの術か…

 



誰もがその矢が落とされると思った。

 




だが、その矢は見事に鈴鹿御前の身体を貫いた。

 




両手を広げた鈴鹿御前に幾つもの矢が刺さり続ける。 

 




「やったぞ!」




うおぉぉぉぉぉ!!!!





森の中に数百の叫び声が響く。





身中に矢を受けて鈴鹿御前が膝をつく。



そのまま地を這うようにして館の炎の中に消えていった。





どぉぉっぉぉぉん!





大きな音を立て鈴鹿御前の館が崩れていった。





うおぉぉぉぉぉぉぉ~!



 

崩れ落ちた館を前に歓喜の叫びが響く。

 




その波動は陣で指揮をとる田村麻呂にも届いていた。





「終わったようだな…」




その口元に浮かぶ笑みの意味。




それを倭で知る者はいない。

 



「朝まで屋敷を取り囲んでおけ!誰一人逃がすな…」



田村麻呂が叫んだ。

 


その言葉は倭の兵の心に刻まれていた。









子供達が薄暗い中を出発してから時間は過ぎた。

 


朝日が射し大地を温め始めた。


 

朝早くから叩き起こされ眠そうである。

 


それでも一生懸命に歩いているのは、何かを感じているからだ。

 


こんな事は一度も無かった。

 


館を出ることなど一度も無かったのだ。

 


理由は分からない。

 



だが、歩かなければならない。

 



子供でもそれぐらいはわかる。

 



「あれ、何か変な臭いがする!」



子供の一人が気づいた。

 



「本当だ!変な臭い~!」



廻りの子供もそれを嗅いでいる。




凪はその香りを知っている。

 



懐かしい香り。

 



「あと少しで着くぞ!」




颯太も子供達に発破をかけている。

 



「御前様、大分無理してる…」



凪はそう思って振り向いたが、鈴鹿御前は意外に平気なようだ。


 

「あれっ?」

 



どうやら力の使い方が身についたらしい。

 


昨日より早く歩いているような気がする。

 



香りが強くなる。

 


音がしている。

 



「何の音?」



楓が凪に聞いている。

 



凪は知っている。

 



「自分で確かめれば?」



凪は楓に微笑んだ。

 



「あそこまで行けば分かるんじゃない?」



そう言って凪が指さした。

 


「いいの?」



楓が凪の顔色をうかがっている。

 


凪は鈴鹿御前をちらりと見た。

 


鈴鹿御前が微笑んでいる。

 



「見るだけよ!」




凪のその言葉で子供達が走り出した。

 



坂道を駆け上がった。

 



きゃぁぁぁっ!

 



子供達の叫び声が聞こえる。


 


波の音がしている。

 



子供達は砂浜を走り出した。

 



「見るだけって言ったでしょ!」


 


凪の叫び声は誰にも聞こえていない。




「うわ~これって海?」



「なんで!こんなに大きいの!」

 


子供達は海を見るのが初めてであった。

 



「あれが本当の…子供の姿だな…」

 


「かつて…私もそうだった…」

 


「懐かしい…」




心が子供時代に帰っていく。

 



鈴鹿御前は微笑んでそう言った。



「ええ…」



凪は目に涙を浮かべていた。

 



「私にこの声を聞かせたかったのか…」



鈴鹿御前は海を見ている。


 

「えっ…」



凪にはその言葉の意味が分からなかった。

 



「やっと、ここまで来られた」



鈴鹿御前は凪に向かって微笑んだ。




挿絵(By みてみん)





続く…








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