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空の宇珠 海の渦 第六話 その二十九





挿絵(By みてみん)




森の中に虫の声が響き渡っている。

 


松明の炎がが揺れている。

 


だが、その炎が全てを照らす訳ではない。

 


その廻りだけはほんのり明るい。



 


時折その炎に虫が飛び込んでくる。

 


虫は炎を認知できない。

 


知らないが故にその命を炎に捧げることになる。

 




鈴鹿御前の屋敷の前。



倭の兵は火を放つために矢を仕込んでいた。

 



数百の兵が屋敷を囲んでいる。




ただの盗賊ならばそれだけで死を覚悟しなければならない。

 




その倭の兵の前に突然、黒い霧が現れた。



だが、薄暮を過ぎ辺りは暗い。

 


その事実に気づく倭の兵はいない。

 



どんどん膨らんでいる。

 


渦を巻きながら。

 


黒いその姿が大きくなっていく。

 



虫の声がしていない。

 



一人の兵がそれに気づいた。

 




「おい!虫が鳴き止んでいる…」

 



「そんなことが…」

 



静まりかえる森に、その不安は広がっていく。

 



倭の兵がざわつく。




何かが起こっている事は間違いない。





闇に紛れる闇。





「おい!あれは何だ!」




「敵が、いるぞ!」




倭の兵が叫んだ。

 




その時、屋敷の前に鈴鹿御前に化けた、後鬼が立っていた。

 



倭の兵は闇ではなく鈴鹿御前に目を奪われた。

 



闇の波動を鈴鹿御前と取り違えている。




「矢を放て!」



誰かが叫んだ。

 



すでに屋敷の塀は火に包まれていた。

 



門扉も炎に焼かれている。

 




無数の矢が後鬼が化けた鈴鹿御前に放たれた。




炎をくぐり抜けてそれは命中するはずであった。

 



だが、届く前に全ての矢が地に落ちた。

 




倭の兵は唖然となった。

 


何が起きたか理解出来ない。

 




「敵は術を使うぞ!気をつけろ!」

 



誰かが叫んだ。

 



だが、それは術ではない。

 



嵐の仕業だ。

 



見えぬ速さで嵐が矢をたたき落とした。



それだけのことだ。

 


それが見えぬ倭の兵は術と勘違いしている。

 




『おかしな術を使う輩かもしれぬ…』



田村麻呂の言葉が、真実を曲げていた。

 




兵はその言葉に誘導されただけだ。



更にその兵の前に巨大な黒い塊が出現した。

 



松明の明かりだけでは見えなかった。

 



だが今は屋敷の塀にも火がついている。

 



その炎はどんどん広がっている。

 


それは少し前からあった。

 


炎の勢いがそれを浮かび上がらせたのだ。

 


闇の触手は倭の兵に向かう。




あるものには黒い百足…



あるものには黒い蜘蛛…



見る者によってその形は違う。

 


倭の兵は必死に矢を放つ。



だが、矢はその身体をすり抜ける。

 



「き、効かぬぞ!」



その不安は恐怖に変わっていく。




その触手に捕まった者は生きる力を奪われていく。



何人もの生きる屍が転がっている。




恐怖が膨らんでいく。



その恐怖が思考さえも支配する。

 



鈴鹿御前の得体の知れない術が、襲ってくる。

 



倭の兵は誰もそれを疑わない。

 



「お主の目論見どおりだな…」



嵐が笑っている。

 



「ここまではな…」



真魚が笑みを浮かべる。

 




館の屋根の上。

 


その裏側に真魚は潜んでいた。

 



「ここからが後鬼の腕の見せ所だ…」



真魚が嵐に説明する。

 



「腕とはなんだ…?」



「鈴鹿御前は死なねばならぬ…」



「ここでな…」



真魚は燃えさかる炎の先の闇を見ていた。




挿絵(By みてみん)




続く…







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