空の宇珠 海の渦 第六話 その二十七
飛炎が闇に紛れながら矢を放っていた。
「隠れて叩くのは性に合わないが…」
そこに突然、嵐が現れた。
瞬きをする瞬間、それほど早い。
「一度、引くぞ…乗れ」
そう言う嵐の背中には、先に疾風が乗っていた。
飛炎が背中に乗ると、あっという間に館の裏に飛んだ。
誰にも見えない。
霊力に敏感な者であれば気づいたかも知れない。
だが、その姿を見ることはない。
「なんて速さだ…」
飛炎と疾風が驚いている。
「俺は神だぞ…」
嵐が自慢げに事実を言う。
「その気になれば、倭の兵などあっと言う間だ…」
嵐の言っていることは嘘ではない。
人がどうこう出来る速さではない。
だが、そのおかげで飛炎と疾風は心にゆとりが出来た。
「言ったであろう、問題は倭ではないと…」
後鬼が二人の心を感じていた。
その言葉が再び二人を不安にする。
「それほどなのか…その魔物は…」
疾風が後鬼に尋ねた。
「うちらでも骨が折れる…」
「よく言うわ、いつも見ておるだけのくせに」
嵐が話に横やりを入れた。
「嘘ではないぞ、うちが戦うとは言ってない…」
「何だか自慢している様に聞こえたのじゃが…」
その表情に嵐が呆れている。
「人がまともに戦って勝てる相手ではない」
前鬼が話をまとめる。
「闇と呼んでいる…」
真魚が二人に言った。
「闇…だと」
「奴らは黒い霧のように形を変える」
「形など元々ない…」
「だが、人の心を写す…」
「人の心を写す…?」
さすがの疾風も真魚の説明を理解出来ない。
「その者の恐怖に形を変える…」
「それは、この世で一番恐ろしいと言うことだ…」
「この世で一番恐ろしいもの…」
疾風が考えている。
「ならば、見る者によって形が違うのか!」
「そうで無ければ意味が無い…」
疾風の疑問に真魚が答える。
「意味が無い…」
疾風が混乱している。
「人は心で感情を生み出す」
真魚が二人を見ている。
「だが、恐怖も生み出す」
「それを…食らうのか…闇は…」
「そうだ、しかも生命と一緒にだ…」
真魚の言った答えに飛炎が唖然としている。
疾風は口を開けたまま閉じていない。
二人の心象には、闇に食われる自分がいるに違いない。
「来るものは仕方が無い、使わせてもらう」
真魚が恐ろしい言葉を言った。
その時…
「!」「!」「!」
同時に視線を合わせた。
「噂をすれば…」
視線を外に向け、真魚に笑みが浮かべていた。
「こんな時に…笑っているのか…」
「本当に恐ろしいのはこの男かも知れない…」
疾風はそう感じていた。
続く…