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空の宇珠 海の渦 第六話 その二十五





鈴鹿御前の館。

 


その周りには倭の兵が張り付いている。

 


その数、数百…



もう後戻りは出来ない。

 


四人は西対に潜んでいた。

 


「さて、どうするか…」



前鬼が考え込んでいる。




挿絵(By みてみん)





「真魚殿は何も言って無かったのか?」



後鬼が真魚の不自然な行動を指摘する。

 



「何も言わないのではないぞ…」



前鬼にはある考えが浮かんでいる。

 



「たった四人でどうすると言うのだ…」

 


飛炎が諦めたように言葉を発した。

 



「確かにな…それに、策もなしか…」



柱に背を預け疾風が言う。

 



「策がないのではないぞ…」



前鬼が二人を見ている。

 


「では、どうするのだ…」



飛炎が鋭い視線を向ける。 

 



「策がないのではない、策の施しようがないだけだ…」



後鬼がその事に気づいていた。

 



「策の施しようがない…」



疾風が考えている。

 



「それは、予想できないと言うことか…」



疾風は頭がいい。

 


何かにに気づいている。

 



「お主ら…人を食らう魔物を知っておるか…」



前鬼が二人に聞く。

 



「人を食らう…魔物だと…」



二人が驚いている。

 



「その様子だと見たことはないようじゃな…」



後鬼が見抜いている。

 



「人には一人ずつ固有の波動が出ている…」



「音のようなものだ…」




「波動…?」



飛炎と疾風は初めて聞く。

 


「倭の兵にもそれがある…」



「その波動が千も集まればどうなるか…」



後鬼がその両手を広げて説明している。

 



「千の笛の音が聞こえていると思え…」



前鬼がそう言う例えをする。

 


「山中に響く…」



疾風が想像する。

 



「その音を魔物が聞きつける訳だ…」



後鬼が答えを言った。



「来るのか、その魔物が…」



飛炎が新たな答えを求めている。

 



「たんまりあるご馳走を見逃すと思うか…?」

 


前鬼が笑って言う。




「これだけは言っておく…」

 


「見たら、逃げろ」

 


前鬼が念を押す。

 



「逃げろだと…」



飛炎はその恐ろしさを知らない。

 



「それに触れた者は生命を吸われる」




「生命を吸われる…どういうことだ…」



頭のいい疾風でも、その理解を越えている。


 


「良くて廃人、最悪は死だ…」



前鬼が事実を言った。

 


「死…だと…」


飛炎はその言葉が信じられない。

 



「恐らく…」

 


「真魚殿はそれを見方に付けるつもりだ…」



前鬼が全てを二人に告げた。

 



「あの男は魔物を見方にするというのか!」



飛炎が驚いている。

 


そんな話は聞いたことがない。

 


しかも、そんな簡単な話ではないはずだ。




「正確には見方になってしまうのだ」



前鬼が説明する。

 



「それ自体は生命を食らうだけだ…」



「儂らにとってもそれは同じだ…」



「それは倭の兵にとっても同じだ」



「だが、儂らはそれが何であるか知っている」



前鬼が丁寧に説明する。




「倭の奴らは敵の術か何かと思うかもしれない…」




「そう言うことか…」



前鬼のその一言で疾風は理解した。



「倭の兵は狼狽え逃げ惑うだろうな…」



疾風がその意味に気づいている。




「儂らが手を出さずとも自滅じゃ…」



後鬼がその未来を想像している。

 



「だが、ひとつ分からぬ事がある…」



前鬼が話を変える。

 



「それでは田村麻呂が鈴鹿御前を成敗したことにはならぬ…」



そう言って前鬼が考え込んだ。

 



「その話の前に飯でも食わぬか?」



皆が振り向いた。

 



そこに真魚と子犬の嵐がいた。

 


「うるさい奴がいるのでな…」

 


そう言って真魚は腰に下げている瓢箪の蓋を取った。

 


その口から沢山の食べ物が出てきた。



飛炎と疾風は何が起こったか理解出来ない。

 


その時、既に嵐は食べていた。



「腹が減っては戦はできぬ!」



別に…戦が好きなわけではない。



だが、嵐はご機嫌だ。

 



「食わぬのか?」



真魚が二人に勧める。

 



「嵐の言うとおりじゃ」



後鬼が果実を囓っている。




飛炎と疾風もその果実を取って食べた。

 


「うまい…」

 


初めて食べる果実であったがその味は格別であった。

 



不思議な瓢箪であった。



それは全てを繋いだ瓢箪でもある。


 


だが、二人がもっと驚いたことがある。

 


それは子犬の食べた量が、皆の分を足したよりも多かったことだった。




「食った~~っ!!!」

 


嵐は満足げに寝転んでいた。





挿絵(By みてみん)






続く…




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