空の宇珠 海の渦 第六話 その二十二
鈴鹿御前は子供達を連れて山道を下りている。
先頭は颯太が、真ん中に凪、しんがりは鈴鹿御前が務めている。
凪と颯太は背中に小さな子供を背負っている。
「峠の道まで行ければ…」
鈴鹿御前は焦っていた。
登りよりは早い。
しかし、四、五歳から十歳ほどの子供達だ。
丸一日はかかるであろう。
全ては自分たちにかかっている。
時間を稼ぐと言っても限度がある。
自分達が安全だとさえ分かれば、あとはどうにでもできる者達だ。
鈴鹿御前は館に残った者達を気にしていた。
凪は颯太が盗んだ瓢箪が、自分たちの命を救ったことに驚いていた。
「まさかこんな事になるなんて…」
あの事件がなければ、今頃倭の兵に囲まれていたに違いない。
「ひょっとして…」
凪は一つの疑問を抱いていた。
その答えが閃いたような気がした。
『あの男は全てわかっていたのかも知れない!』
凪はそう感じていた。
颯太にわざと瓢箪を盗らせたような気がしていた。
颯太と真魚が出会った事実。
それは偶然ではない。
「ちょっともったいなかったかな…」
凪の頬がほんのり赤い。
「ほんと不思議な男…」
真魚の顔を思い浮かべて微笑んでいた。
嵐が空の上から子供達を見ている。
「さすがに子供の足では無理があるか…」
「俺が運んだ方が早いぞ…」
嵐が事実を言った。
「これは鈴鹿御前がやらねばならぬ…」
背中の真魚が言った。
「何故だ…」
嵐は納得がいかない。
時間がかかりすぎる。
それに、子供達の体力が心配だ。
「真魚、お主は鬼より怖いな…」
後鬼のことを言っているのではない。
嵐が真魚を責めている。
「同じ事が起こればまた逃げねばならぬ…」
真魚がそう言った。
「あの力を使いこなすまでは見ておきたい…」
真魚が嵐にそう言った。
「それでか…」
嵐がやっと納得する。
「結界を保ったまま動く術を得れば…次に備えられる…」
「子供の体力もそうだが、鈴鹿御前の霊力も同じだ…」
今回は真魚達が見守ることが出来る。
だが、次はそうは行かない。
真魚はその時の事まで考えていたのだ。
「だが、そんな長い間、奴らが倭の兵を食い止められるのか?」
嵐は後鬼達の事も気になっていた。
「夜まででいい…」
真魚がそう言った。
「それに、お主は気づいておったではないのか…」
真魚が嵐に確認する。
「殺すなと言ったことか?」
「そうだ」
嵐は気づいている。
「お主と言う男はどこまで…」
そこから先は言うのを止めた。
「まだ、時間はある…」
「それに、あの鈴鹿御前…なかなかのものだ…」
真魚が子供達を見てそう言った。
続く…